第21話 手段
塔を出た俺たちは、塔を眺めたまま立ち止まっている一夜の脇を擦り抜けた。
一夜は、塔の服を着ている俺たちをちらりと見た。
やはり……気になっているのだろう。
擦れ違う際に俺は、一夜の気を引くように言葉を残す。
「自然環境を治癒する呪術医なんて、本当にいるのかよ」
塔に入らない呪術医の存在は、勿論、行動を起こす事で気づかれてしまう。
それは当然、ペイシェントと関わりを持つ事から始まる事だ。
もしそこで、その呪術医の能力が、ペイシェントを納得させるものならば、塔の存在が揺らぎかねない。
それがどんな事に繋がるか、一夜なら分かっているはずだ。
俺たちが排除に向かうと、直ぐに気づく事だろう。
「ああ。この間の荒天……急におさまっただろ」
そして侯和だって、その存在は気になっているはずだ。
「あれがそうだっていうのかよ?」
わざとらしいかとも思ったが、煽るように会話を続ける。
「だからそれを確かめに行くんだろ」
一夜は、先を行く俺たちを気になっているようだった。
ちらりちらりと目線を向けながらも、俺たちに気づかれないよう、平静を保っている。
……つけて来るか。
一夜がそっと後をつけて来ているのに気づいていた。
まあ…… 一夜は俺が気づいているとは分かっていないようだが。
過ぎ去る俺と咲耶を見ても、やはり表情が変わる事はなかった。
……まだ、俺たちの事は、その記憶の中にないだろう。
ましてや、圭が一夜から『気』を持っていった事で、余計に抜け落ちている。
だが、本当に守りたいものは……。
そう思ったと同時に、苛立ちが沸き起こる。
「どうした? タカ? 何か気になる事でもあるのか?」
はは……侯和に気づかれちまった。
苛立つ感情が顔に出ちまったな。
「いや……」
俺は、首を横に振ると、静かに笑みを見せた。
…… 一体、どれだけしつこく纏わりついて来るんだ……。
何が起ころうとも、絶対に忘れる事はない。
だからこそ、ずっとその思いは残り続けるんだ。
『本当に守りたいものは、優先するべきだ』
来贅が言っていた言葉が、どんな時でも付き纏う。
まるで来贅の言う事は全て正しいと、この現実にあるものは、そうであると断定を余儀なくさせる。
それが悔しくて仕方なかったが。
確かに……。
本当に守りたいものの為に、その行動が現れる。
何よりも優先する為に、その手段を考えるんだ。
俺と侯和が話すその言葉が、一夜の足を更に進ませる。
「もしそれが本当なら、許可のない呪術の使用を認める訳にはいかない。それ程の能力……放置すれば塔の崩壊を招く」
「ふん……もしそれが本当だとしても許可など降りるはずがないだろう。組織に入るか……排除されるか、その二択だ」
「いや……もう一つ、あるだろ」
侯和の言葉に振られる事は、その真意を確かめるつもりでもあった。
本当に……守りたいもの……。
その為になら、この先に何が起ころうとも、ついて来るだろう。
俺は、一夜が後に引き返す事が出来なくなると分かっていながら、その言葉を口にした。
「はは……あの町医者の息子のようにか?」
そして、後に続いた侯和の言葉が。
一夜の心を掻き乱した事だろう。
「ああ。『分離』だよ」
本当に守りたいものを優先する為に、もう……。
迷っている時間はない。