第20話 行動
長かった。
その時が来るまで。
……差綺。もう少しだけ待っていてくれ。
お前が張った網に掛かってきている。
『大丈夫だから……貴桐さん』
……もう少しだ、差綺。
もう少しで、来贅の思惑を狂わせ、奴に近づく事が出来る。奪い返す時が来る。
ただ……その時には……。
巡り合い……干渉せざるを得ない状況は、必然だ。
巡り巡って、また結びつく。
塔を見上げ、立ち止まった一人の男の姿を確認するように横目で見た。
…… 一夜。
新たに動き始めた時は、再会を意味するが、一夜にとっては始まりになる。
……悪いな、一夜。
お前が辿り着きたいものに辿り着く為に、通らなければならない道は過酷かもしれない。
だが……今のお前なら、その覚悟は出来ているんじゃないか……?
圭の為に……ここに来たんだろ……? 圭を取り戻す為に。
侯和と圭が準備を整えている間に、俺たちも準備を整えてきた。
侯和が圭を上層に行かせる事が果たされれば、侯和に出来る事はなくなる。
圭が来贅に近づいた時には、分離は免れないだろう。
そこで圭の計算が狂えば、圭は戻る事が出来なくなる。
互いに秘めた思惑を、確認した事は一度もないが。
この塔の中で、侯和たちと俺たちの接点を作れば、同時に潰される可能性が大きくなるだけだ。
交わるのは、最終段階でなければ、来贅の内側に入る事は難しいだろう。
一つの思惑が狂っても、もう一つの思惑が並行していれば、必ず交差する。その時が侯和たちと俺たちとの接点だ。
目的は同じはずだからな……。
塔を出る前に咲耶が俺に言った。
「貴桐さん。『彼』の不足は補えていないようです。あのままでは……」
等為と可鞍を持つ咲耶にとっては、不安要素がある事は明らかに分かる事だった。
「それでも『彼』が圭と共に上階に行ったなら、来贅は何か勘づいたかもしれないな」
「ええ。そうだとなれば、分離された時点で奪われる可能性が高いです。犠牲が増える事でしょう」
「ああ……奪われるとするなら、圭の知識体系……『彼』に不足があるなら、来贅は『彼』に手を出す事はないだろう。奴にとって必要なのは、その……『可能性』だ」
「満足のいく形になるまで……という事ですか」
「ああ。だが……」
塔を出ようとする前に、その姿は見えていた。
「今日……やるぞ」
「干渉してきましたね……分かりました。等為と可鞍に問題はありません。貴桐さんの思うがままに」
「ふ……思うがまま、か……そうだな」
「望む事を掴む時です」
「……ああ、そうだな」
「タカ……! 悪い、待たせた」
侯和が俺たちの元へと走ってくる。
俺は、侯和を待ちながら、呟いた。
「侯和にも……掴ませてやろう」
侯和が圭に託したものが『彼』の存在であったならば、あいつも信じているはずだ。
草や木……人。それぞれに気が宿っている。そして、それが力をもたらすと……。
「……少し荒い方法だが、本音を吐き出させるには一番だ。悪いな、咲耶。一芝居頼むよ」
「構いません。それに……」
咲耶が気掛かりなのは、何処まで干渉出来るかだろう。
「……そうだな」
「宿と継承者は繋がっていますから……不足を補う為に、現れるでしょう」
「ああ……」
俺は、塔の前に佇む一夜をちらりと見た。
本当に……そっくりだ。
「来るだろうな……『彼』が」