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第18話 知識

 俺と圭は、肩を並べて歩き始めた。

「タカさんだって……俺の事、知っているんでしょう……?」

「さっきも言った通り、町医者の息子だったって事はな」

 答えた俺に、圭は前を向いたまま静かに苦笑した。

 俺の言葉に気づくものがあったのだろう。

 それもそうだ。

 俺は、初めから圭にそう言っている。


「過去形で……言うんですね……」


 圭は、そう呟きながら、俺をちらりと見た。

「聞いたって言ってましたけど、誰から聞いたんですか。コウさんからではないですよね。俺は、コウさんにもそこまで話した事はないので。塔では互いの素性までは知らないはずです」

 俺を知っているなら、俺が誰から聞いたかという事にも気づくだろう。だが、俺は敢えて答えなかった。

 圭は、探るようにも静かな笑みを俺に向けたが、その事を深く聞く事もなく言葉を続けた。

 察しはついている。全てを話すつもりはないが、嘘もつきたくない……そんなところだろう。掘り下げれば、自分の目的に辿り着けなくなるかもしれない、そう思ったはずだ。

 微妙なラインで会話を続ける事に、確証させない逃げ道を作っている。


「まあ、元々、面識があった者同士は知っているでしょうけど。俺は、皆と面識はなかったので。それを知っているのは『主様』だけ……ですが主様は、他言する程、他人に興味がない。いえ……そう言うより『人』に興味がないんです。興味があるのはその『中身』……だからその人間の素性なんて、どうでもいいんですよ」

「『能力』か……」

「ええ。正確に言えば、思考能力……つまり、その者の知識体系です」

「知識体系ね……成程な」

 それが来贅が呪術医や呪術師を集めた理由……か。

「だから……分離なのか?」

「……」

 圭は、無言で目線を少し下に落とした。


 急に口を噤んだ圭に、俺は核心をつくように言葉を吐き出す。

「お前……元々、そのつもりなんじゃないのか」

 圭は、無言のままだった。否定もしなければ肯定もしない。

 だがそれは、肯定しているのと同じだ。

 そう思われてしまう事も分かっているのに、言葉を返さないのは、止めても無駄だという強い覚悟の表れだ。

 そんな圭の思いは、俺にも分からない訳じゃない。

「奪われた者なら分かる……その中身を取り戻すには、その中に入り込むしか方法はないってな……」

 俺のその言葉に圭は、驚いた顔をしていた。

 俺は、圭のその表情を横目で見ながらも、そこには触れず、言葉を続けた。


「高い能力を持っていれば、干渉してくる……『奇跡』だ」


 そう言った俺は、一歩引いて圭の後ろを歩く『彼』をちらりと見た。

『彼』の隣に咲耶が並んでいるが、会話をしている様子もなく、ただ前を歩く俺と圭についてくる。

 圭は、そんな俺の目線に気づいている。

 その後、互いに目線を合わせる事はなかったが、圭は俺にこう言った。


 ……圭。やはりお前は……。


「俺の事なら大丈夫ですよ」

 その後に言葉を続ける圭は、その時の事を思い返しているようだった。


「心配しなくていいと……そう……言葉を残してきたので、守らないと」


 ……言葉を残してきた……か。

 自分の言葉を、その姿と共に思い返した。


 別れを告げた。

 それと同時に約束をした。


『……寂しがるなよ……ジジイ。必ず……戻って来るからな』

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