第16話 疑問
塔に入らない呪術医の動きが多少なりとも見えると、その情報が伝えられ、下層が確認する為に動き始める。
こういった情報が入ってくるのは、ペイシェントからだった。
不快に思うのは、塔のヒエラルキーの影響が、ペイシェントにも及んでいるという事だ。
自分が優先的になるように、塔が欲しい情報を流してくる。
塔に媚びれば、自分は優先的に助けて貰える……そんな思いが見えていた。
俺たちは、その確認の為に外に出る事になったが、咲耶と圭と『彼』の四人で向かう事になった。
「ケイ…… 一つ……訊いていいか」
俺はそう口を開くと、圭と『彼』を交互に見た。『彼』は、自ら話す事はなく、表情も大きく変わる事はない。圭の側を一時も離れず、常に行動を共にしている。
見れば見る程、『彼』は一夜によく似ている。
俺の目線で察したのだろう。圭は、そっと目を伏せて、困ったように静かに笑った。
「……不自然ですか? 俺が上層を目指す事は」
「お前の親は、呪術医だったと聞いた。それならお前が上を目指すのも、当然と言えば当然なんだろう?」
「それは、否定する為の理由ですよ」
圭は、そう言って目線を俺へと戻した。
この言葉の返し方……やはり頭がいい。
親が呪術医だったから、自分も呪術医になって当たり前。周りから見ればそれだけで、疑うものもありはしない。
胸の内に秘めた何かを持っていても、その言葉が盾になる。
そして、その胸の内を疑うように訊いた俺の言葉が、そのまま圭の盾になった。
圭は、穏やかな笑みを見せる。何を訊かれようが、疑われようが、不安など一切ないという表れに見えた。
それはやはり、圭の側を一時も離れない『彼』にあるのだろう。
……何を望んだ……? 何を選んだ……?
一夜を知っているだけに、圭が一夜から『気』を持って来たというなら……。
『助けて……下さい』
自分の力の限界を涙ながらに訴えていたあの姿……。
守りたい者を守る為に願ったものならば、また圭も一夜を守ろうとする為にした事か……。
「一つ……伝えておきます」
圭は、ゆっくりと瞬きをすると、俺をじっと見つめて言葉を続けた。
「このままずっと下層にいれば、全て……持っていかれますよ」
俺は、圭の言葉に眉を顰めた。
「全て……ね。それはこの体の中身って訳か」
「それが塔に貢献出来る唯一の術ですから」
「俺の心配より、コウはどうなんだ?」
「……タカさんも……わざわざ下層を選んだんですよね?」
「ああ」
「何故ですか? 行きたくても行けない者は、羨む事でしょうね」
「俺、呪術医じゃねえし。いきなり上に行ったって、何にも見えねえだろ。それに正直、医術に興味はない」
「はは……じゃあ、コウさんと同じですね」
圭の言葉に、侯和に初めて会った時の会話を思い出す。
『俺……興味ないんですよ』
『興味? はは……まさか、呪術医にとか言わないよな?』
『はは……そのまさか、ですよ』
笑みを見せながら話していたが、急に圭の表情が翳りを見せた。
俺は、そんな圭を見ていたが、圭は目線を前に向けたまま、口を開いた。
それは俺に真実を伝える為だったのか、後悔していると嘆きたい思いだったのか、だが、俺にどうにかして欲しいという思いはなかっただろう。
ただ、その言葉を吐き出す事で、それが事実だと伝えるようだった。
「コウさん……もう……捨てるものがないんですよ」




