第15話 部分
……どうしたら……いい。
どうしたら……。
これだけの人数を俺たちだけで守り切る事が出来るか。
そんな言葉が頭に浮かぶ度、来贅の言葉が絡み付いてくる。
『必要なものと不要なものを切り分ければ済む事だ』
その言葉は、もう既にこの塔の中で成立しているようだった。
『……気づかないのでしょうね……周りには。何かが……変わっていて……何かが……足りなくても……』
ふと、あの主人の姿が頭に浮かんだ。
その中身は、勝手に奪われていく。
……取り戻す術は、何処にある……?
そして、奪われ続けていくこの状況を止めなくては、死者は増えて行く一方だ。
『最後には……骨しか残らないのですから』
……骨しか残らない。
『朽ちた屍に用はない』
……必要なものと……不要なもの……。
俺は、上階の様子を見に来ていた。
それは、ある事を確認する為だった。
死者が出るのは上階からで、死者を見送る下層は問題なく上階に上がれる。
上階の呪術医は、皆、同じ動作を繰り返していた。
ここで行われる事も、変わらず同じ事だ。
俺は、呪術医の動きをじっと見ていた。
手にしたスカルペルがペイシェントの体へと向く。
それを目にした俺は、確信した。
……やはり……そうか。
「塔に入って暫く経つが……諦めた訳ではないようだな?」
俺の背中に言葉が投げられた。
「……来贅」
俺が上階の様子を窺っている事を、おそらくずっと見ていたのだろう。
「驚かなくてもいい。調べたいなら好きにしろと言っていたのは私だからな。お前にとって必要なものが見つかるまで……な」
「……そのつもりだ」
「ふふ……少しは私に近付く事が出来そうか?」
「何の為の問いだ」
「お前の為の問いだろう……? 私はお前に期待しているのだからな。タカ」
その呼び名に、俺は目を伏せ、静かに笑みを漏らした。
そして、目線を来贅に戻し、奴へと歩を進めた。
俺は、来贅と肩を並べたが、見ている方向は真逆だった。
来贅の口元に笑みが浮かんだのが横目に映る。
俺も来贅も目線を合わせる事はなかった。
俺は、目線を前に向けながら口を開いた。
俺のその言葉に来贅は、ふふっと静かに笑みを漏らした。
「俺がそれを見つけた時……それがお前にとっての本物なんだろ」
俺は、来贅の漏らす笑みを聞きながら、肩越しに来贅を振り向いて言葉を続けた。
「気づかないよな……何かが変わっていて、何かが足りなくても」
「……ほう……?」
来贅は、興味深そうに唸ると、俺に目線を向けた。
その後には何も答えない来贅だったが、その目線は俺の先の言葉を促している。
「お前の言う通りだよ……来贅。いくら骨を繋いだとしても、そこに『生』は成り立たない……だが…… 一つだけ気づくものがあるんだよな……?」
俺は、ゆっくりと歩を進めながら、来贅に言葉を置いて行った。
「そこに『生』が成り立っていると、誰もが気づく……それはたった一つだけだ。そうだろう、主様?」
皮肉めいた口調で言った俺だったが、来贅は満足そうな笑みを見せていた。
塔を出て行く死者からは、何も聞こえはしない。
そこにはもう『生』は成り立たないからだ。
何かが変わっていて、何かが足りなくても。
もう……誰も気づかない。
上層の呪術医が、ペイシェントにスカルペルを真っ先に向けた部分……。
……心臓だ。




