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第4話 少年

 主が死んだ。

 歳も歳ではあったが、全てを使い尽くした……そんな思いを見たようだった。

 動く事のなくなったその表情でも、何故か微笑んでいるように見えたのは俺だけだろうか。

 弔いを終えて、俺は宿木の元にまた向かっていた。

 ……枯れている。

「そっか……」

 苦笑しかなかった。

「それはそうだよな……」

 主は、これが自分の力だと言っていたのだから。

 カサカサと葉が揺れる。

 パラリと落ちてくる葉っぱが、俺の目の前で止まった。

 俺は、眉を顰める。

 目の前に浮いているように止まった葉。それが引き寄せられるように枝へと戻っていく。

 俺は、その葉を追うように木を見上げた。


 木の枝に座る人の影が見えた。

「誰だ?」

 そう声を掛けると、またカサカサと葉っぱが揺れる音がする。

 枝を掻き分けて顔を覗かせる少年……。

「あはは。見つかっちゃった」

「何をしている?」

「うーん……。宿木が枯れたってみんなが言ってたから、新しい主に会いに来た」

「それで?」

「種……持ってるでしょ?」

「何……?」

 この少年……。

 俺を見ただけで分かるのか。

 確かにあの時、俺は種を掴んだ。だが……。

「掴んだが、持ってはいない」

 そう答えると、少年はクスリと笑って口を開く。

「そんな事ないよ」

「お前……」

「ねえ、登って来て」

「あのな……」

 遠慮もなく、人懐こい態度に少し呆れながら、少年を見た。

 穏やかな笑みが、興味を示している。

「仕方ねえな」

 俺は、少年の言う通りに木に登る。

 少年と同じ枝の上に立った俺は、改めてその顔をよく見た。

 ……赤い瞳か。

「お前、あまり見た事ないな」

「うーん。僕、あんまり外に出なかったから」

「何故? 何処か悪いのか?」

「ううん。外に出ても、面白そうな事、なかったし」

「あ、そう……」

 変わった奴だな。

「じゃあ、なんで外にいるんだ? 面白い事でも見つかったか?」

 そう訊くと、少年はじっと俺を見つめた。

「なんだよ?」

「新しい主でしょ? 行嘉貴桐さん。僕の退屈がやっと消えるよ」

「あのなあ……俺はお前を楽しませる為の道具か?」

「あはは。そういう事じゃないよ」

「じゃあ、なんだ?」

「ねえ、上を見てみて?」

「上?」

 少年が指差す方向に目線を向けた。

「……お前……」

 驚きを隠せなかった俺を、楽しそうに少年が見る。

 枝と枝、葉と葉を伝って張り巡らせた糸が、陽の光を受けてキラリと輝いた。

 蜘蛛の巣……か。

 そう思ったが、糸の色が赤く光を見せる時がある。

「お前が張ったのか?」

「触れてみて?」

「あ?」

「いいから」

「全く……なんかお前には調子狂わされるな」

「早く」

「分かったよ、仕方ねえな」

 呆れながらも俺は、その糸へと手を伸ばした。

 俺の手が触れた瞬間、張り巡らされていた糸全体が、真っ赤に染まった。

 まるで……糸が生きているようだ。

 驚いたのはそれだけじゃない。

 俺の手から糸へと何かが伝っていく。

 あの時、手に感じた粘液だ。

 それが糸を伝って枝へと染み込んでいく。俺に染み込んだように消えた時と、真逆に。

 一瞬、陽の光が強くなったように眩しくなった。

 次の瞬間。

「……これは……」

 枝に芽が出始める。

 ……種が……。

 それは早くも根を張り、芽を伸ばし、この木に宿る宿木となった。

「お前……」

 少年を見る俺を、変わらずの笑みで見つめてくる。

「ね? 種、持ってたでしょ? 貴桐さん」

 こいつ……。

「は……はは。あはは……!」

 笑いが漏れて止まらなかった。


 少年は、そんな俺を興味深そうな顔で見ながら、名を告げた。


「僕は差綺(さき)。新しい主のお祝いに来たんだよ」

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