第14話 無言
侯和が何処までを信じて、圭を後押ししているかはまだ分からない。
そもそも、侯和自身、精霊の存在に頼り切ろうとはしていないはずだろう。
……全ては圭……か。
圭が一夜から『気』を持っていき、精霊を継承したならば、圭と一夜は繋がっている。
宿と継承者は離れられない。
圭が事を起こそうと動き始めれば、一夜が接触して来るはずだ。
まあ…… 一夜自身、何に動かされているかは気づかず、自然と干渉してくるだろう。
圭が準備を整えた時に、事は動き出す。
一つの『気』が動けば、その『気』と繋がっている限り、干渉は避けられない。
そこに『共感』が存在してしまうからだ。
だが……。
それは俺たちにも関わってくる事だ。
『助けて下さい……』
一夜の悲痛な声が頭から離れない。
一夜は、圭を守りたかったはずだ。
自身が崩れそうになりながらも、誰かの為にと方法を探した。
……圭はどうだ……?
守る為か……攻める為か……。
それにしても……。
塔に来るペイシェントは、減るどころか増えるばかりだった。
塔以外で診てくれるところがないからだが……。
重症だと上階に案内されたペイシェントが、自身の足で塔を出る事が出来たのは、入って来た数より少ないものだった。
「……こんな事を見る為に……塔に来た訳じゃない」
目に焼き付いて離れなくなる光景に、俺は言葉を漏らした。
「タカ……」
そんな俺を気遣うように、侯和が俺を見ていた。
無言で塔を出るペイシェント。それを見送るのも、下層の役割だった。
その度に、何も手を加える事の出来ない自分を嘆く。
人体に特化する事のない呪術をいくら使ったとしても、人の命までは救えない。
だからこその呪術医なら、この数を……減らしてみろよ。
そう言いたくなった事にさえ、己を呪うようだ。
何が起きてこうなったかを知っているだけに……そのもどかしさは悔しさを大きくさせていく。
……ジジイ。
死者を見送るその時は、必ずジジイの顔が目に浮かんだ。
ジジイは全てを使い尽くした……そんな思いが伝わって来たのは、ジジイの表情がそう言っているようだったからだ。
動く事のなくなったその表情でも、俺にはジジイが微笑んでいるように見えた。
なのにどうだ……。
病を患ったからこうなっても仕方がないと、割り切れというのか。
……ここに見えるのは、諦めばかりだ。
上層に従う下層や中層の呪術医も、そんな顔が見えていた。
自ら塔に入ると決めた呪術医と、仕方なく塔に入った呪術医の差の表れだった。
そしてそれは、自分の持っているものの自信に影響するのだろう。
影響した自信は、ヒエラルキーを作っていった。
それでも俺が上層に上がる事を拒否したのは、塔に縛りつけられたくなかったからだった。
下層にいれば、塔の外へと出る機会は多い。
それは当然、塔の支配に隠れながら呪術医を続けている、塔で言うなら『個人主義者』を排除する為ではあったが。
俺は、出来る限りその呪術医を、そのまま隠れさせる事にしていた。
その時が来た時に、ペイシェントを受け入れられる呪術医がいなければ、この塔を崩す事は出来ない。
俺を気遣うように俺を見ていた侯和も、その後に続ける言葉はなかった。
侯和もきっと俺と同じ思いでいる事だろう。
悔しかった。辛かった。
だが……。
ただ黙って……。
黙って見送る事しか出来なかった。