第12話 同等
侯和は、俺に言った。
「能力を他者に移す……『分離』だ」
……能力を他者に移す……成程。それが可能なら、欲しい能力は全て手に入れる事が出来る……。
この塔に集まった者は、多少なりとも来贅の意に適う者だ。
これも……そうか。
「ふん……あり合わせの材料……ブリコラージュか……」
俺は、静かに笑うとそう呟いた。
「タカ……?」
侯和は、どうしたのかと不思議そうな顔をして、俺に視線を向けた。
俺は、そんな侯和にちらりと目線を返しながら、皮肉めいた口調でこう言った。
「この塔の『主様』は、大したブリコルールだな」
俺の言葉に侯和は、言葉なく、驚いた顔を見せていた。
呪術医にしても、呪術師にしても、呪術を使う者ならば、意味は分かっているはずだ。
それがどんな形で集められようとも、使えるものは使う……。
勿論、目的を達成する為に。
必要なものが揃わなくても、代用出来るものがあるならそれを使う。
但し、代用するもの程、『本物』に近付ける為に必要なものは多くなる。
やはり……俺が思った通りのようだ。
『幾つかを組み合わせて、一つのものにした時に、それが代替えになるとしたら?』
『同等の価値を見出せるとしたら、だ』
それを来贅に当て嵌めれば、この塔に集められた者は、ペイシェントも含めて『材料』だ。
はは……塔に入った俺も、今はその材料だな……。面白くねえ。
ブリコラージュは修繕……来贅は不足を補う為に呪術医や呪術師を集めている。そして必然的に集まるペイシェント……か。
来贅が自身を修繕する為だと答えを出せばいいが、ただ……。
多くの力を得てしても、それでも不足が続くというのは……やはり、タブー……か。
圭と会う事が出来たのは、それから暫く経ってからだった。
「……貴桐さん」
咲耶が小声で俺を呼んだが、その後の言葉はなかった。
「……」
俺も何も答えなかったが、互いに何を思ったのかは分かっている。
圭の側には、長い白髪の男がいた。
……巡り合い……か。
やはり必然か。
俺は、その男と目が合ったが、言葉を交わす事はなかった。
圭は侯和と何やら話している。
これから圭とこの男と行動を共にする事だろう。
圭の姿が見えなかった間、この男の姿も見掛ける事はなかった。
それにしても……。
男は、圭の側を離れる事はない。
圭の後につき、圭に従っているように見えた。
そして侯和との間に見える、男との距離感もやけに近い。
俺と咲耶は、彼らの様子を見ながら、小声で話す。
「……干渉して来るとはな……」
「影響力が大きいようですね……どうしますか」
「気づく者は他にいないだろう。等為と可鞍と同じだ。侯和が……仕掛けたか」
「それは……あの彼の為に何かを代用したという事ですか」
「初めて圭に会った時、言っていただろ。『手伝って欲しい』と」
「ええ」
「まさか……圭だったとはな……」
「そうですね……」
俺たちが見るその男は、懐かしくも思えた顔だったが。
髪の色も目の色も、その雰囲気も違っていた。
両親を塔に殺されたという町医者の息子。
そしてその友人……。
あの時の声が、耳を掠めるようだった。
『助けて下さい……』
圭の側を一時も離れる事のないその男は。
一夜にそっくりだった。