表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/168

第8話 上下

 柯上 圭……この男もまた目的があるようだ。

 笑顔を見せてはいても、何かを秘めている。自分の手で成し遂げようとする為の覚悟……か。

 落ち着いた雰囲気が、心の内を悟られないように気をつけているようにも見える。

 塔に入った日は浅くても、侯和に馴染んでいるところを見ると、やはり同じ思いがあるのだろう。そう感じた。

 だが、これ程、若くても呪術医なのか……? どう見ても、まだ十代……。差綺と歳は変わらないように見えるが。

 今はこの塔以外では呪術医を続ける事が出来ない。続ける為に、なのか……。ただ単に呪術医を目指しているだけなのか……。

 この若さで呪術医だとしたら、その能力は高い事だろう。

 そうだとしたらどうして下層に……。

 侯和にしてもそうだ。

 いくら侯和の持っていたものが、この塔の中で超えてしまったとしても、その能力が土台にあったはずだ。

 能力で階層が決まるなら、下層にいるのは妙だ。

 上層に入った方が有利になるんじゃないのか……。

 いや……有利かどうかは目的次第か。

 この二人がそれでも下層にいるという事は、いきなり上層に入ったとしても目的は果たされないという事か。


 敢えて……下層を選んだ……?


 俺はちらりと侯和を見た。その視線に気づく侯和は、何故か目線を逸らす。

 ……何か……ある、か。


 圭のところへと歩き始めながら、侯和が言う。

「ここは上層階だ。この先にもう一つ部屋がある。そこに行けば、塔の服が用意されている」

「もう既に階層が決まっているという事か」

「ああ。この塔に入ると決めた者は、その前に会っているはずだ」

 侯和は、肩越しに俺を振り向いて言った。


「『主様』に」


 主様……ね。もうこの言葉自体が呪いだな。聞きたくねえ。

 思わず顔が引きつる俺に、侯和は言葉を続ける。

「既に見定められているんだよ。だから、もう既に用意されている。だがそれでも……」

「なんだ?」

「選択肢があるんだ」

「選択肢……」

 ……またかよ。

 俺は、気鬱にも溜息を漏らした。

 そもそも、選択肢などと言っても、相手から出された選択肢では、利点が少な過ぎる。

 その中で選ぶのは、どれだけ自分が納得出来るかになるだろう。

 奴にしたって、選ばせたいものは決まっている。それでもわざわざ選択させるのは、自分の意に(かな)うかどうかを確かめたいだけだ。

「まあ……選択出来るのは、用意されている服が、上層だった場合だけなんだけどね……」

 侯和は、俺から視線を外すと、少し上を眺めるように目線を向けながら、寂しげにも見える表情で呟くようにこう言った。


「見上げるからといって、それが羨望な訳じゃない」


 ……やはり、敢えて下層を選んだか。羨望じゃない……成程な。

「だから……俺たちに見せたのか。上階で何が行われているかという事を」

 侯和は、俺に視線を戻すと、うっすらと笑みを見せた。

「正しい選択……と言いたいけれど、この塔で正しいと言えるものは正直ないと思っている。それでも、下があるからこそ、上が見えるって事は確かな事だよ」

 侯和は、そう言うと、圭と共に歩き始めた。階下に戻るのだろう。

 背を向けて歩いて行く侯和は、静かな声で言葉を置いていった。

 聞こえても、聞こえなくてもいい……そう思いながら口にしたのだろう。

 まあ……俺には聞こえていたが。


「……君が選択するまでの少しの間……忘れかけていた待望に苦痛を緩和しているよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ