第6話 共有
遠見侯和。代替えが出来るという呪術医……。
聞きたい事は色々あるが、何処まで互いを信用するだろうか。
……いや。
ここで求めるものは、互いの信用なんかじゃなく、どうやって……。
「俺……興味ないんですよ」
俺たちを案内しながら、侯和はそう口を開いた。
「興味? はは……まさか、呪術医にとか言わないよな?」
「はは……そのまさか、ですよ」
「冗談だろ……だってあんた……」
「他人が持っているものを自分のもののように使う事が出来るのは、ただ単に共有したからだと割り切る事が出来ますか?」
「……何の話だ」
この男がそんな話をし始めたのは、納得出来ないものがあるからだろう。
そして、俺に何が正しいのかを判断させようとしている。
俺たちを案内する侯和は、上へ上へと足を進め、その歩を中々止める事はない。
「おい……」
怪訝な顔をする俺に、侯和は静かに笑みを見せた。
侯和が一つの扉に手を掛けた。
俺の表情を見ながら、扉を開く。
ここで求めるものは、互いの信用なんかじゃなく。
「……貴桐さん……」
咲耶の声が異様さを訴える。
俺は、扉を開けた侯和の隣に立ち、開かれた扉の先をじっと見ながら侯和の問いに答えた。
「……その理由が、本当に誰かを救う為のものならば、な……」
そう答えた俺に、侯和はふっと笑みを漏らした。その笑みは苦笑だった。
それもそうだろう。
「形を模したものを、同じものとして機能させる事が出来る呪術医……あんただよな」
俺は、真っ直ぐに扉の先を見たまま、言葉を続けた。
「……良かったな。あれはあんたが言っている共有なんかじゃない」
その言葉に侯和の目線が俺に動いたのは気づいていたが、俺は侯和を見る事はなかった。
向けられる目線が熱を感じるくらいに、強く向けられている。
それがこの男の本音なのだろう。
否定して欲しい。それを望んでいる。
ここで求めるものは、信用ではなく、否定だ。
「……いい訳ないだろ……」
不満を声に響かせる侯和を、横目に見た。
「いい訳ないだろ……」
同じ言葉を繰り返す侯和は、悔しさを吐き出していた。
「いい訳……ないだろ……」
「……」
気づいていた。
その目から落ちる雫に。
だからこそ俺は……。
「そのままにするのか」
俺は、侯和を振り向き、じっと見つめた。
侯和は、俺の目線を瞬きせずに受け止めた。
「流れて零れ落ちるだけ……そのままにすれば、地に沈むだけだ……興味がないなどと……馬鹿な言い方をしたのは、目を背けたかったからか……? 自分の持っていたものが、それ以上を膨らませて、超えてしまった事に」
「……」
侯和の手が、悔しさを握っていた。
俺は、踵を返して歩を進める。
……後は……あんた次第だろ……侯和。
止めた足を踏み出すかは。
ここしか頼るところがないならば、ここに来るペイシェントの数は減る事はないだろう。
たった一人で間口を抑えても。
救える数には限りがある。
その手から零れ落ちた者たちは、地に沈む事だろう。
扉の先で行われていた事は、人から人への臓器移植だった。
生と死が混在している。
それは俺から見ても分かるくらい、まともなやり方じゃなかった。
まるで……。
材料のように繋ぎ合わせて。
……人を作っているようだ。