第5話 対面
「丹敷を一人にしてよかったんですか?」
咲耶の問いに、足を進めながら俺は答える。
「…… 一人じゃない」
「え……?」
俺が動かした目線を咲耶が追った。
丹敷が歩いて行く先には、数人の男がいた。丹敷が男たちに近づくと同時に、皆、歩き始める。
「あいつには……他に仲間がいる」
「……仲間……」
「ただ……互いに信用出来るかは疑問だけどな」
「まあ……日も浅いですしね……」
「そう言うより……丹敷が言っていた階層に理由があるだろう」
「……皆、上を目指しているという事ですね」
「ああ。数人で動くのも、互いの行動を確認する為だ」
「塔に入った呪術医でも、それは本意ではない……そういう事ですか」
「まあな……あの主人が言っていた事……」
「代替えが出来る呪術医……ですか」
「ああ。その呪術医だって、何か目的を持ってこの塔に入ったはずだ。そいつの目的が知りたいがな……」
「どうやって探しますか。やはり、呪術医が集約されただけあって、相当な人数です。能力で階層が決まるなら、その呪術医の能力は高いのでは……? そうだとすれば、この階には……」
「……いや」
「貴桐さん……?」
俺は、じっと前を見据えると、その方向へと歩き始めた。
大勢のペイシェント。
明らかに具合が悪そうな者と、それ程、悪いようには見えない者……。そこに付き添う、呪術医……。
……若い呪術医だと言っていた。
そして、この塔に来て間もないはず……。
あの主人が信用出来ると言っていた呪術医だ。
もし……。
俺がその呪術医なら……。
「お帰りになられて大丈夫ですよ。心配はありません」
「え……でも……まだ受付しか……」
「一週間」
「え……?」
「一週間経ってもまだその症状が続くなら、その時は来て下さい。症状がなくなれば、それで大丈夫です」
ペイシェントとの会話で、俺は確信する。
俺は、その男の肩を掴んだ。
いきなり肩を掴まれて驚いた事だろうが。
俺がこの呪術医なら。
「問題のないペイシェントは、これ以上、中に通さない……か?」
そう言った俺を驚いた顔で見ていた男は、体を俺に真っ直ぐに向き直すと笑みを見せた。
「……驚いたな……見抜かれたなんて……これだけの数のペイシェントだ。途中で帰ってしまっても、大きな問題にはならないですからね……」
男は、そう言って髪をクシャクシャと掻いた。
「何者……ですか……? 体調が悪いようには見えませんが……だからといって、俺を監視している訳でもないでしょう?」
「勿論だ」
「塔に入る為に来たんですか?」
「まあな……」
「……それは残念だ」
そう答えて、長い溜息をつく。
「……ああ……そうだな。残念だよ」
同意した俺に、目つきが変わる。
「案内しましょう。ついて来て下さい」
「そうして貰えると助かる。右も左も分からないからな……」
「名前……聞いていいですか」
「行嘉貴桐だ」
「俺は……」
男が俺に名を告げる。
『塔に入った者は、名前から取った二文字がコードネームだって……』
……成程。
「遠見侯和。一応、呪術医……かな」
初対面の俺にコードネームで告げない……か。
やはり……思った通り、ただ単に塔に入った訳ではないようだな。




