第3話 本物
以前、咲耶と話した事を思い返した。
『幾つかを組み合わせて、一つのものにした時に、それが代替えになるとしたら?』
『同等の価値を見出せるとしたら、だ』
形を模したものを、同じものとして機能させる事が出来る呪術医……。
『その本物は、そう簡単に手に入らないものだ』
確かに……人の臓器など……そう簡単に手に入る訳がない。
だからこそなのか、代替えを使わなければならないのは。
その呪術医は……塔の実態を知っているって事か。
なのに塔に入ったなどと……。
やはりその呪術医も、何か目的がある……か。
塔でその呪術医に会う事が出来れば、分かる事だな。
一夜が言っていた事も、はっきりする事だろう。
『元々、呪術医は、あり合わせの材料でブリコラージュする事が出来る……ブリコルールです』
これが……あり合わせの材料を使った結果……。
……ブリコルール。
塔が求める呪術医は、不足を補える者……当然、能力は求められるだろう。
追い詰められれば、追い詰められる程に、現状回避の手段を考える。
それは俺たちも同じ事だ。
……来贅。奴は、追い詰めた結果に手にした回避方法を奇跡と考え、その奇跡を求めている……そういったところか。
「……体の中が……どうなっているかなど……普通では分かりませんよね……」
主人は、苦しさを堪えながらも話を続ける。
何も出来ない事が無念でならないのだろう。
「……そうだな」
「だから……」
主人の目から涙が零れ落ちた。
「……気づかないのでしょうね……周りには。何かが……変わっていて……何かが……足りなくても……」
そう言って主人は、ゆっくりと頭を動かすと、窓の方へと視線を向けた。
外の様子がどうなっているか、知っているのか……。
「最後には……骨しか残らないのですから」
……骨しか残らない……。
『朽ちた屍に用はない』
……不要……か。
そして必要なのは……。
「……本物」
「貴桐さん……?」
ポツリと呟いた俺に、咲耶がどうしたのかと目線を向けた。
「……いや」
それはもう気づいていた事だった。
人には人に使う『材料』がある……と。
呪術師たちから奪ったものも、奴にとっては必要なものだった。
やはり悔しいのは……。
『例えばさ……何かの呪いに必要とする材料が揃わなかった時、お前ならどうする?』
『本物でない限り、見掛けだけのものになるのでは……?』
考え方は……同じだと言いたいのか……。
……だから……呪術師を……。
そして……呪術医を集めたのか。
代替えが同等の価値に出来たとしたら……使えるものになる。
だがそれは『本物』が手に入るまでの時間稼ぎだ。
この目の前にいる主人のように、多少であってもその命の時間が延びる。
「死を目前にした者は…… 一日でも長く生きる事が出来たなら……それで良かったと言えるのでしょうか……私には……そうは思えません」
主人が口にした言葉は、その後、塔に入った俺たちに突き付けられる真実だった。
「治らないと分かっているのなら……それ以上長く苦しむ事は……必要でしょうか……?」
微かな声でそう言った主人は、ゆっくりと目を閉じ、その後、目を開ける事はなかった。