第2話 代替
塔に向かう中、町の様子を訝しがっていた。
呪術医が塔に集約され、塔以外に診療を行うところは確かに見当たらない。
耳にする声の中には、大した事はないからと治療もせず、亡くなったというものもあった。
待ち時間の長さが大きく影響しているのもあり、塔に行く事自体を躊躇うようだ。
「……貴桐さん」
「……ああ」
立ち止まって眺めるその光景は、身につまされる。
……弔いをする人の流れが多過ぎる。
同日で同場所……こんなに重なるものか。
流行り病ならあり得る話だろうが、そうではない。
……どうなっている。
俺は、悲しみの声が流れる中を通り抜けながら、目線をある方向に向けた。
……そういえば……。
「貴桐さん……!」
突然、走り出した俺を咲耶たちが追う。
俺が足を止めたのは、以前に呼ばれた主人の家だった。
その家の扉を叩くが返答がない。
「いないのか……! 開けてくれ……!」
『あなた以外、みんな亡くなったんだね。次は……』
俺は、扉を叩き続ける。
人のいる気配がする。いるはずだ。
『自分の番』
「チッ……!」
俺は、何処からか中に入れる場所を探して回った。
咲耶たちも同じ行動をとった。
「貴桐さん……! ここからなら入れます」
咲耶の声にその場所へと動いた。
開いている窓があった。
俺たちはそこから中へと入った。
「ご主人……! 何処にいますか……!」
咲耶の声が主人を呼び続けると、奥の方から物音が微かに聞こえた。
俺たちは、物音が聞こえた方へと向かう。
部屋の扉を開けると、主人が布団の上で寝ていたが、明らかに具合が悪そうだ。
「おい……! どうしたんだ? 大丈夫か?」
俺の声に主人は、うっすらと目を開けた。
「……ああ……あなたは……あの時の……」
息も絶え絶えに、言葉を吐き出す。
「……どうやら……その時が……来たようです……」
震えながら伸ばした手が、俺の腕を掠めた。
掴みたくても掴む力もないのだろう。
力なく落ちるその手を、俺は掴んだ。
「……塔に……行ったんです……そこに行くしか……助かる方法はないと……ですが……本当は……確かめる為に……」
「確かめるって……あの時、言っていた事をか?」
「はい……どんな治療を行っているのかを……確かめに……」
「……馬鹿な……何故、一人で……あんたは塔を信用していなかっただろ……」
「もういないと思っていたのですが……塔の影に隠れながら……密かに呪術医を続けていた……信用出来る呪術医が……いたんです……ですから……その時はその呪術医に……と……」
「信用出来る……呪術医……?」
この主人が信用出来るという呪術医なら、それは本当の事なのだろうが……。
「その呪術医は……まだ若いのですが……代替えが出来る呪術医で……」
「代替え?」
主人の言葉に、俺は眉を顰めた。
「ええ……形を模したものを……同じものとして機能させる事が……出来る……呪術医です」
「……どういう……事だ……」
形を模したものを……同じものとして機能させるだと……?
「……奪われてしまったんです……」
奪われたって……呪術師たちのように……。
「まさか……」
俺は、主人の体に触れた。
……足りない。
来贅……。この主人が訝しがっているのに気づいて奪ったか。
「……はい。それで……その呪術医に代替えを……ですが……長くは持たないと……」
「その呪術医は何処にいる? 診て貰う事が出来るんだろう? 連れて来てやる」
俺の言葉に主人は、小さくも首を横に振って答えた。
……何故だ。
その言葉に自分たちのこの状況を重ねてしまう。
やはり……望まないものを掴むしかないのか。
「もう無理です……塔に入って……しまいました……」