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第29話 戮力

 俺は、咲耶の防御を盾に来贅へと向かう。

 響く雷鳴は音を増し、地を震わせた。

 来贅は俺に背中を向ける事なく、攻撃を避け続ける。その余裕さに腹が立つばかりだった。

 俺を誘導しているのか、生い茂る木々の中へと潜り込んでいく。

 来贅は、まるでこの地を知り尽くしているかのように、迷う事もない。

 木々が立ち並ぶ場所では大きな動作も出来ないと、攻撃を抑え込むつもりか。

 森の主なら無闇に木を倒す事はしない……そんな事まで利用しているようだ。

「貴桐さん……」

「……ああ。奴は見下すのが好みらしいからな。どうせ……」

 俺の目線は上を向く。幹に足を掛け、脚力をバネに枝を伝って上へと登る。


「上だろ」


 ガサッと葉が擦れる音に混じって、来贅の笑みが聞こえた。

 互いの距離は決して遠くはない。枝違いに対峙する。

 来贅は、またクスリと笑みを漏らすと、ゆっくりと口を開く。

「……同等……それともそれ以上……貴桐……お前はどちらを望んだ?」

「それはお前を基準としての問いか?」

「ふふ……そうでなければ取り戻したいものも取り戻せないだろう?」

 嘲笑を交えた目が、俺の力量を試している。

「来贅……お前基準の力量だというのなら、お前が持つ力以上のものはないと……そう答えたいのか」


 その心臓に宿し力を持った者……死を見る事……永遠に叶わん。

 選ばれた者は、たった一人。

 その(おご)りは、こいつそのものの自信であって、どんなに追い詰められようと死の恐怖を感じる事はない。

 だが……こいつはその恐怖を、一度でさえ感じた事はないとは言えないはずだ。

 死を目前にしたからこそ、望んだ力だろう。


「私が持つ力以上のものはない……ふふ……そうだと答えたら、お前は負けを認めるか?」

「じゃあ……俺が望んだものがそれ以上だったと答えたら、お前は負けを認めるのか?」

「……成程。やはりお前は面白いな」

 来贅は、クッと肩を揺らして笑うと、俺に向かって指を差した。

暫時(ざんじ)……待ってやろう」

 その言い方も態度も、主導権は自分、か。

 奪われたものを取り戻そうとする者は、無事に取り戻せるよう願う。それが弱みとなるのが心地悪い。

 来贅は、俺に向けた手を自分の胸元に当てる。

 そして少し顎を上げ、俺を斜めに見ながら言葉を続けた。


「お前が差し出したものの『価値』が、それ以上を掴んだのなら取り戻せるはずだからな……?」


 俺は、来贅の言葉に眉を顰めた。

 ……こいつ……もしかして……。

 差し出したものの価値だと……? 俺が力を得るのをずっと見ていたのは、力の差を確認出来たというのか。

「来贅……お前……」

 来贅は、胸元に手を置いたまま、俺の反応を窺っている。

 笑みを見せるその表情は、俺が察した事に気づいているからだろう。

 心臓に宿し力……差し出したのは心臓って訳か。

「……価値などと……決めるんじゃねえ……」

「それは取り戻す事が出来てから言うんだな。取り戻せなければ……お前の目の前で死人が出るだけだ」

「来贅……」

「では……始めよう」

 来贅がそう言うと、俺の上にある枝が軋む音がした。

 バリッと音が弾けたと同時に、俺へと枝葉が大量に落ちて来る。

 避けようと手を翳したが、俺が立っている枝が折れ、足場を失う俺は、来贅の立つ枝へと飛び移った。

 そして瞬時に来贅を掴むと、幹に来贅を押し付け、力を込める。

「貴桐……安易に近づくのは、愚かではないか?」

「貴桐さん……!」

 咲耶の声が響くが、その声は俺にとっての合図だった。

「……ああ、そうだな……」

 頷きながらも俺は、ニヤリと口元を歪ませる。同時に、網が一面に張り巡らされた。

 その網を伝い、咲耶が俺の近くに来た。

 頭上から落ちて来る葉が、俺たちの目の前で落ちずに止まる。

「あはは。僕の網からは逃げられないよ……?」

「この間の礼……させて貰うからな?」

 張った網が足場を作り、差綺と丹敷が降り立った。


 俺は、来贅を見据えたまま、奴に言った。


「俺が一人だったならな」

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