第27話 犠牲
「その『材料』があれば、死者さえも生き返らせる事が出来ると、望みを与えたのはお前たち呪術師だろう?」
死者を生き返らせる術……反魂。
それを言っているのだろうが……。
だがそれは、そう簡単なものではない。
骨を繋ぎ合わせ、薬草を使い、呪文を数日間、休む事なく唱え続ける。
そこに薬草を使うという事は、医術師からの知識もあったと言えるのだろう。
医術と呪術が入り混ざれば、不可能な事も可能になると、互いに知識を共有した……だからこそ呪術医というものが違和感なく存在出来たって訳だ。
だが奴は、今ここで俺にこう言った。
『いくら骨を繋いだとしても、そこに『生』は成り立たない』
……使った事がある……か。
そうでなければ、そんな言葉が返ってくる訳がない。
そもそも呪術師でさえ、安易に使う事などなかったものだ。正直、この術を使おうとする呪術師は殆どいない。
少しでも手順を間違えば、失敗に終わる。高い能力を要するものではあるが、この術に伴う代償は大きい。いくら高い能力があったとしても、そこにあるのは可能性であって、確実に手に入れられる呪術成功ではない。
口で説明するのは簡単であっても、それは結果を保障するものではなく、理解させる為だけのロジックだ。
失敗すれば使った呪術は半端なままで、それが呪いとなって残り、何にしても呪術の失敗は、呪術を使った者に跳ね返ってくる。
失敗したとなれば、何かしらの代償があったはず……。
だが来贅の様子からしても、自らが代償を払ったようには見えない。
代償など払うどころか、こいつは手に入れたものの方が多過ぎる。
跳ね返ってきた呪いをそのままに出来る訳がない。それはずっと追い掛け続けてくる。
何か代わりのものでも使ったか……。
……代わりのもの……。
一夜が言っていた言葉を思い出す。
『それでも何か使えるものはないかと考え、呪術医は新たなものを生み出す方法を常に探していました。元々、呪術医は、あり合わせの材料でブリコラージュする事が出来る……ブリコルールです』
あり合わせの材料……それは当然、目に見えてその場にあったもの……。
人には人に使う材料があるって事なら……。
代償は……自分以外の犠牲って訳か。
「……成程な」
俺は、そう静かに呟くと苦笑を漏らし、来贅へと目線を動かす。
来贅は、そんな俺を興味深そうな目で見ていた。
俺は、来贅と目線を合わせたまま、言葉を続けた。
「お前……人を使ったな」
俺の言葉に、来贅は静かに笑い始めた。
「……言っただろう。望みを与えたのは、お前たち呪術師だと」
「それは……お前の事を言っているのか。そうだとしたら、思い違いだな」
話を続けている中、呪術師たちが俺を呼びにやって来たのか、声が近づいて来る。
その声に来贅がちらりと目線を動かした。
「思い違い……? そうだろうか……?」
来贅がいる事に気づかなかったのか、俺の姿を見つけた呪術師が声をあげる。
「主様……! ここにいらしたんですか……」
「来るなっ……!」
叫ぶ俺の声に、来贅の表情が緩む。
奴が口元を歪ませてクスリと笑みを漏らしたのと同時に、俺の元へとやって来た呪術師たちの動きが止まった。
「来贅っ……!」
来贅の動きを封じようと伸ばした俺の手が届く間もなく、呪術師たちの呻き声が耳に流れ込んだ。
呪術師たちがバタバタと地に倒れる。
俺は、呪術師たちへと向きを変えた。
「おいっ……! しっかりしろ……!」
倒れた呪術師に手を触れる。
「……っ!」
触れた瞬間に違和感を持った。
俺は、その違和感を問うように来贅を振り向いた。
「来贅……お前……」
「返して欲しいと言うなら、私から奪ってみるといい」
来贅は、初めからそのつもりだった。
『お前が主か。それなら私から奪ってみるといい』
俺は、ギュッと手を握り締めた。
その違和感は、あるはずのものがなくなっているというものだった。
来贅は、また静かにクスリと笑うと俺に答えた。
「その……内臓をな」