第26話 代償
必要とするものが手元になかった時、必要とするものが何処かにあったとしたら。
交わる事のなかったものも、交わる時が来る。
それが……代替えだったとしても、同等の価値を見出せるのなら手に入れようとするだろう。
例えそこに代償が伴おうとも、その代償を請け負う『誰か』がいれば、不都合はないといったところか。
俺が手にした力にしても、代償を払ったのは俺自身で、俺をそのまま手に入れれば、手に入れた奴は代償を払う事はない。
俺を捩じ伏せればいい事だ。
ジジイが死んで、手にする事になった書物と精霊の力。
……どれだけジジイの力が強かったのかを痛感する。
俺は、ジジイの墓の前に立っていた。
「……全てを守る……か……」
そう呟いた後に苦笑が漏れた。
「俺も……ジジイに守られていたって事だもんな……」
スウッと風が通り抜けていった。
風が止むと背後に気配を感じる。
俺は、振り向く事なく、背後に感じた気配に声を掛けた。
「……お前の必要なものは、手に入りそうか?」
そう言葉を吐くと、ふふっと静かに笑う声が返ってくる。
「それはそうだよな……昔なら手に入ったものも、今は容易に手に入らない。例えば……」
俺は、振り向くと同時に言葉を続けた。
「人骨……とか、な……?」
来贅の笑みを湛えた顔が目に映った。
奴は、笑みを浮かべた表情で、俺に答える。
「……少し……話が違っているようだ。そんな話をするのは、前の主の墓の前にいるからか? 朽ちた屍に用はない」
「ふん……随分な言い方だが、ああ、そうだな……確かに違っているな。昔も今も容易に手に入らないものだ」
「ふふ……いくら骨を繋いだとしても、そこに『生』は成り立たない。だからそうして地に沈むのではないか?」
……地に……沈む……か。
「お前が掬ったのは『生』だと、俺に打ち明けているのか? 勿論それは、他人を救う為じゃない。自らの生を繋ぐ為だけのものだとな」
「勘違いをするな」
「勘違いだと?」
「自らの生を繋ぐ為……それを求めているのは、塔に来るペイシェントたちだろう? そして……そう意識付けたのは呪術医だ」
俺は、来贅の言葉に眉を顰める。
納得など到底出来ずに、不服な顔をする俺を見て来贅は、ふっと笑みを漏らした。
「生きられる術を見つける事が出来たのも、与えたのも、知識を得た結果だろう? 病を患い、その運命を受け入れられない者たちが作り上げたもの自体が、あの塔だとしたら……お前が否定しているのは私ではない」
「まるで責任転嫁だな」
睨みを見せる俺に、余裕な態度で笑みを見せる来贅。
目線を合わせたまま、間が置かれた。
何を話そうと通じ合える訳がない。
先に口を開いた来贅の言葉が、相容れないのも当然だと示していたが、その根源が何処にあったのかを突き付けた。
「そして……医術師が呪術医と名乗るようになったのも、呪術師が使う呪術がその術を教えたからではないのか……?」
……人体に特化する呪術を知らない訳じゃない。
犠牲を伴うその術は、望ましい事ではないと遠ざけた。
だが、その術を知っていた呪術師という存在は。
「その『材料』があれば、死者さえも生き返らせる事が出来ると、望みを与えたのはお前たち呪術師だろう?」
……罪を作ったと代償を求められる。




