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第25話 屈辱

『呪術師は、呪術を使う事が出来て、呪術師と名乗れるんだったな。その名を保つ事が出来ればいいが……な』


 来贅が言った言葉が現実に起こる。

 最初からそのつもりだっただろう。


 悪評が広がると、その名を語る事が難しくなった。

 俺たちが口を閉ざすと、代わりに呪術師を名乗る者が現れていた。

 それは更に悪評を呼んだ。効力など当然なく、呪術師という名を穢す為に偽っていたのだから。

 これも塔の……来贅の差し金だろう。

 その反面で、呪術医は名高くなっていった。それは塔に入った呪術医のみであったが。

 呪術師は、呪術医になれなかった程度の低いペテン師……そう言われていた。

 それは塔の思惑そのもので、呪術を使う者は、人体に特化する呪術を使うのが当たり前という意識が高まっていった結果だった。


「このままでいいのですか……主様。これでは我々は、生きる道さえ奪われます。闘えというなら、我々は……」

「……いや。それは避けたい」

 (おも)に祈祷や占術を目的としてきた呪術師たちに、闘う術は殆どない。

 名を穢され続けるのは屈辱そのもので、許せるべき事じゃないと腹が立つのも抑え切れている訳じゃないが。

 だからといって、塔を標的に類感呪術や感染呪術を使って呪いでも掛けたものなら、それこそ来贅の思惑通りだ。

 呪術師たちの不満も不安も高まっていくのは当然だったが、今は勝機を見出せないのが正直なところだ。

 こんな状況になっていくのも、人々の抱える不安が一つのものに集中しているからだろう。

 人々にとって生死を揺るがすものは、何よりも不安な事であって。

 その生死に携わる塔の存在は、希望とも言える大きなものになっていっている。

 そこにしかないものだからこそ、そうやって限られたものが大きな間口を広げて立ち(そび)えるなら、それだけでも救われている気にもなるのが、恐怖に震える者の掴める望みなのだろう。

 呪術と医術が混ざり合って、呪術医こそが全て……呪術のみを使う呪術師などもう必要ない、か……。

 薄情なものだと言いたくもなるが、生死に関わっているというのなら、守るべきものが決まるのも仕方がない。

 人々が一番に恐れているのは、何よりも『死』だという事だ。


「……望む事……全て……思いのままに……ね。ふん……成程な」

 俺は、窓の外を見ながら、静かに呟いた。

 そう言った後に苦笑が漏れた。

 来贅の思いのまま……か。

 追い詰めるだけ追い詰めて、一気に仕掛けて来るか……。

 ふん……俺たち呪術師より、来贅の方が余程『小細工』が得意じゃないか。

「主様……?」

「……その裏側には、望まないものを掴む者がいるって事だ」

「それは今のこの状況の事ですか……? では……主様は……それを掴むと……?」

 不安そうに俺を見るが、俺はふっと笑みを返す。

 俺は、部屋を出ようと歩を進め出した。

 不安な表情が消えない呪術師の脇を擦り抜けながら、言葉を置いていく。

「自分たちの身を守る事だけ……考えていてくれ。俺の事は、守らなくていい」

「……主様……」

「……心配するな」

 そう言葉を置いても、その不安は消えやしないだろう。

 それでも俺は……。


 握り締める手から弾ける蒼い光。

 込み上げる悔しさが、雷鳴を呼んでいた。

 この手に掴んだこの力で……。


 全てを守ると決めたのだから。

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