第24話 価値
来贅に荒らされた地を、皆で片付けていた。
一夜も自分に何か出来る事はないかと手伝ってくれていた。
「馴染めているようですね」
咲耶は、他の呪術師たちと一緒にいる一夜を、微笑ましく見ながらそう言った。
「……ああ」
「……心配……ですか?」
歯切れの悪い俺の返事に、咲耶が俺を振り向く。
「そう……だな……」
「あり合わせの材料の事……ですか」
「……ああ」
俺は、咲耶の言葉に頷くと屈み、転がっている石を手にした。
「例えばさ……何かの呪いに必要とする材料が揃わなかった時、お前ならどうする?」
「その呪いは使いませんね……そこに同等の効力が認められるかは疑問です」
「じゃあ……」
俺は、手にした石を地面に置くと、もう一つ、石を拾って地に置いた石の上に乗せた。
「幾つかを組み合わせて、一つのものにした時に、それが代替えになるとしたら?」
「……貴桐さん……それは……」
「『同等の価値』を見出せるとしたら、だ」
「それでも……『本物』でない限り、見掛けだけのものになるのでは……? もし、それが呪いの失敗に繋がった時に、代償は大きく跳ね返って来ます」
「だが……その『本物』は、そう簡単に手に入らないものだ」
「それでも……その呪いを使う意味があるという事ですか……?」
「使わなければならない意味があるんだろう」
「それが……来贅が求めているものだと……?」
俺は、更にもう一つ石を積み上げると、立ち上がった。
咲耶が俺の動きを目線で追う。
来贅……あいつは、俺がその力を手に入れるかどうかを見ていた。
普通なら、力を得ようとしている者を放っておく訳がない。
自分の方がいくら上だとしても、わざわざそんな状況を作る事自体が不自然だ。
「……塔の主……か……」
「貴桐さん……?」
ポツリと呟き、静かに笑う俺を咲耶がじっと見つめる。
俺は、呪術師たちと行動を共にしている一夜を見ていた。
時折見せる笑みに、少しホッとしてはいるが。
一夜にとっての解決は、まだ少し先になりそうだな……。
『助けて……下さい』
一夜の話を思い返しながら、少しの間、彼を見ていた。
あり合わせの材料……ブリコラージュ……。人には人に使う材料か……。
「なあ……咲耶」
俺は、目線を変える事なく、言葉を続ける。
「もし……俺が望まないものを掴んだとしても……それでもいいと言ってくれたよな……」
「はい。勿論、その思いは変わっていませんよ」
「そっか……」
そう言葉を吐いて、ふっと笑みを漏らすと目を伏せた。
「……どうしてだろうな」
「何がですか?」
俺は、石へと目線を落とし、それをつま先で蹴って崩すと答えた。
「望まないものの方が……簡単に掴める」
笑みを見せたまま咲耶を振り向いた。
咲耶は、真剣な目をじっと俺に向けている。
「例え……ではなく、敢えて、という訳ですね」
「ああ」
「分かっていますよ」
そう言って咲耶は、俺が蹴った石を手に取った。
そしてそれをギュッと握り締めると、手を開く。
開いた咲耶の手の中から、砕けた石がパラパラと落ちた。
「……咲耶」
俺と咲耶の目線が合うと、互いに目が笑みを見せた。
咲耶は、穏やかな笑みを見せていたが、俺に伝える言葉には強い思いが表れていた。
俺は、咲耶のその言葉に小さく二度頷きながら、ありがとうと呟いた。
「それなら僕でも掴む事が出来ますね、貴桐さん」