第23話 排除
交わる事のないものが交わった時、衝突が生まれる。
塔に入らなかった呪術医は、身を潜め、人々が塔を頼らざるを得ない状況は、呪術師である俺たちまでも排除し始めた。
その排除のやり方は穢いもので、周囲から攻めてくるのは距離を与える空気感だった。
それは人体に特化しない呪術を使う者は、悪影響を与えると意識づける結果となり、良くない事が起きた時に、呪術師を頼ってきた者たちも、病を患ったのは、呪術師が呪いを掛けたからだと思い込むようになった。
何にしても原因を作り上げ、的に嵌める事で行き場のない思いを当てる事が出来るからだろう。
「こういう排除の仕方もあるんですね」
そう言って咲耶は、深い溜息をついた。
「予測はついていただろ。前々から俺たちを頼って来る者は少なくなっていった。塔の……いや、来贅の思惑通りなんだろ」
「その名を穢されるというのは、気分がいいものではありませんね……」
「……呪術も医術も使える呪術医こそが、この世の最高地位だと決定付けたいのだろう」
「ですが……呪術医の使う呪術とは、当然、人体に影響を与えるものですよね……そのような呪術を安易に行えるものでしょうか。呪術師が今までそのような事を公にしてこなかったのも、人体に影響を与えるような呪術を行う事は、望ましいものではなかったからでしょう。そこには何かしらの代償は伴うはずです。差綺のように媒体を使って感染させたとしても……」
俺が椅子から立ち上がったのと、咲耶が言葉を止めたのは同時だった。言葉を止めた咲耶は、ハッとした顔を見せていた。
そして咲耶は、その後の言葉を続ける事はなかった。
目を伏せる咲耶の肩を、俺はポンと軽く叩いた。
「……そういう事だ」
「……はい」
「接触した者同士、相互に作用する……類感も感染も同じ事だ」
「それが……僕たちの所為だと……いう事なんですね……」
咲耶は、悔しそうに顔を歪めた。
「咲耶……」
「はい」
「差綺は気づいている……俺の不足は、お前が補ってくれよ」
「勿論です」
「奴は……来贅は、必ずまた現れる」
あの時、奴は殺そうと思えば殺せたはず……なのにそうしなかったのは、まだ奴にとって必要なものがあるって事だ。
「……はい」
俯く咲耶の肩をまた軽く叩くと、俺は外へと出た。
「差綺」
宿木があった場所に座っている差綺に声を掛けた。
「あ。貴桐さん」
にっこりと笑う差綺の隣に俺は座った。
「何を見ていたんだ?」
「うーん……まだ残ってるかなーって」
「種か……どうだろうな」
「知ってるくせに」
「はは。俺にだって見えないものは見えないんだよ」
「見えてるものもあるでしょ?」
「さあな……そうかもしれないという感覚だけだ」
「でも、直に目に見えて分かるよ」
「差綺ーっ! 見つけたぞ」
丹敷の声が背後から響いた。振り向くと丹敷が俺たちの元へと走って来る。
その手に握られているものを捉えると、俺はふっと笑った。
「……枯れていない、か?」
来贅に折られた宿木の枝。丹敷がそれを探して来た。
「うん。前の主様の時は、枯れたでしょう? 宿木の枝は折られても、その枝は枯れていない。だからね、残っているんじゃないかなーって」
「全く……差綺、お前には本当に参るよ」
立ち上がる俺と差綺は、丹敷が来るのを待った。
差綺は、笑みを浮かべた表情で、丹敷の方を見ながら俺に伝えた。
「宿木の枝が枯れない限り……僕たちの『主』は倒れる事はない。例え、その体に傷をつけようとも……ね?」




