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第20話 絶対

 翳っていた月が顔を出し、月明かりが地を照らし始めた。

 降り落ちる光は、ここにいる者に分け隔てなく与える。

 互いには相容れない『対立』が、はっきりしているというのに。

 そんな事などお構いなしに、互いの姿を照らし出す。


「これで私と……互角になれたかな……?」

 腕を組み、顎を少し上げたその態度は、明らかに自分が上だと言っている。

 俺の目線が来贅の足元に向いた。

「来贅……お前……」

 来贅の姿を目に映す俺は、ギリッと歯を噛み締めた。

「ああ……どうやら私の思い違いだったようだ」

 蔑むように落とした目線は、俺が目を向けた自分の足元だ。

「その足を……退けろ……来贅」

 そこにいる者に分け隔てなく与える月明かりは、強者と弱者の力の差を残酷に映し出す。

 吐き捨てるように言葉を落とした来贅の足元には、一夜が倒れていた。


「これもハズレか……残念だな」


「来贅っ……!」

 俺は、来贅に向かって足を踏み込んだ。

 来贅を掴もうと伸ばす手から、バチッと光が弾ける。

 俺の手が来贅を掴むギリギリで、奴は俺から距離を取った。それは同時に一夜からも距離を取れた。

「逃がすかっ……!」

 直ぐに来贅を追う俺は、宿木の上に立つ来贅を見上げた。

「チッ……」

 ……何処までも……見下すつもりかよ。

 それなら……。

 俺は、足で地面に円を描く。

 円に光が浮かび上がるとそれを掴み、宿木の上に立つ来贅へと放つように手を滑らせた。

 放った光が俺に従う。

 バチッと光が大きく弾け、稲光のように伸びた光が網となって、俺が思う通りに来贅を捕まえに行った。

「引き摺り下ろすまでだ、来贅……!」

 俺が放った光が蒼く光り、その光に赤い光がパッと混じる。

 絡み合った光が勢いを増し、来贅を捕らえた。

 そのまま来贅を地面へと引き摺り落とす。バリバリと枝が折れていく音が響いた。

 ドンッと鈍い音を地にぶつけ、宿木を宿した木の幹に、来贅を拘束する。

 俺は、来贅へと歩を進めた。

 動きを封じても奴の目つきは変わらない。それがどうしたと言っているような目だった。

 この強気な態度……。


 ……死ぬ事はない……それがこいつを思い上がらせる。


「……やはり……相容れないか」

 クスッと笑って奴はそう言った。

「当然だ」

「貴桐……お前がたった一人になったとしても、勝ち目はあると?」

「……その発言自体が間違っているんだよ、来贅」

「成程。占術……前の主もそうだったな……ただそこに起こる(わざわい)を回避する手段は、禍を持ち込む者の力量次第で、一か八かの賭けとなる……違うか?」

「……そうだな」

「その意見は合うようだ」

「合わねえよ」

 俺は、奴の言葉をバッサリと切り落とす。

「ほう……? やはりお前たち呪術師は『小細工』が得意なようだな」

 来贅の目つきが僅かに睨みを見せた。

 余裕だった態度も、悔しさが混じったか。

 俺は、ふっと静かに笑った。

 折れた枝から落ちた葉っぱが、ふわりふわりと宙を舞い、流れていく。

 俺は、自由に漂う葉を見上げて言った。


「賭けは賭けでも、俺はそこに……」


 降り落ちる葉は、地面に届かず、宙をゆらゆらと漂い続けた。

 カサッと枝が擦れる音がする。

 俺の隣に降り立って来る赤い瞳の少年は、大事な友を抱えていた。

 俺に目線を向けて、ニッコリと笑う。

 ……差綺。どうやら丹敷も無事なようだ。

 俺は、差綺の頭をポンと軽く叩くと、来贅に後の言葉を続けた。

 背後から、俺に近づいてくる気配がする。

 その言葉を言いながら、地を踏む音に耳を傾ける俺は、笑みが漏れていた。


「『絶対』を持っているからな」

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