第18話 後悔
呪術師たちの騒ぐ声が大きくなった。
それも当然の事だ。
今までこんな事は起きた事などない。そもそも、呪術師とはいっても、闘う為の呪術を使える者などそうはいないからだ。
だからこそ俺は……。
悔しさに歯を噛み締め、来贅を睨む。
「来贅……テメエ……」
来贅の嘲笑するような目が、俺の所為だろうと言っている。
「主なら……即座に判断しても問題はないのだろう? 先日とは随分と違い、間が開く。その開いた間で……私の判断の方が先になってしまった。これでは……お前の主としての資質が問われるのではないか……?」
そう言うと、来贅の目が呪術師たちへと向いた。
呪術師たちの声が重なって、ざわざわとしている。
俺は、悔しさも言葉にならず、小さく舌打ちを漏らした。この悔しさは当然、自分に向けてだ。
主は……自己犠牲さえも厭わない……覚悟を持った存在……。
「……貴桐さん。彼らの事は、僕に」
「……咲耶」
俺は、目を伏せると、ギュッと手を握り締めた。
「……頼む」
「はい」
咲耶が呪術師たちへと歩を進め、この場所から離れるよう声を掛け始めた。
彼らの抱えた恐怖心は、この一瞬で刻まれた。
次は誰の番だと思う気持ちが保身に走る。皆、咲耶の言う事に素直に従った。
……それでいい。
俺から離れていてくれ。
俺は、伏せた目を強く開き、来贅を映した。
俺が犠牲になったとしても、こいつは引き下がらない。
『死を見る事……永遠に叶わん』
その言葉が頭から離れる事はなかったが。
こいつの死は……絶対に。
俺が見てやる。
「大丈夫……貴桐さん……」
差綺の手が俺に触れる。
「……大丈夫だから」
「……差綺」
俺に触れる事を拒否していた差綺が……俺の胸元に触れた。
……差綺。
差綺は、穏やかな笑みを見せると丹敷に近づいた。そして、自分の首元にある蜘蛛の印に触れる。
蜘蛛の印が動き出し、差綺の指に蜘蛛が乗った。
その蜘蛛を丹敷の体に乗せると、蜘蛛が丹敷の体を繋ぐように網を張り始めた。
「差綺」
俺は、差綺の隣に並んだ。
「大丈夫だよ……貴桐さん。僕の毒は強いけど……丹敷には耐性があるから……それに……」
「……だからだろ」
「……うん」
差綺……お前は……。
守れると思っていた。
全てを守れると思っていた。
そこにその力があったなら。
その為の自己犠牲なら、いくらでも払ってやると決めていた。
だが、その前に……。
その力を手に入れる事の出来る『選ばれた者』にならなければ、何一つ守る事も出来ないなんて……。
パキッと枝が折れた音が耳を通り抜ける。
「終了だ、行嘉貴桐」
来贅の手に握られた宿木の枝。
奴がその枝を放り投げたと同時に、爆発音と共に地面が割れた。
「差綺っ……! 丹敷っ……!」
爆風が巻き起こり、二人の姿を捉えられない。
それどころか、大きく割れた地面が塊となって、体にぶつかって来る。
暫くすると爆風が止んだ。
力を振り絞り、起き上がろうと膝をつく。
……咲耶は…… 一夜も……。
辺りに目を動かすと、呪術師たちも皆、地面に倒れたまま起き上がらない。
シンと静まり返った空気感が、死を伝えるようで。
「あ……」
地面についた手に、血が落ちていく。ポタポタと流れ落ちる雫は、止む事を知らずに、俺の手から滑り落ちて地面に沈んでいく。
「あ……」
掬わなければ……。
俺の中で何かが弾けた。
「ああああああああああああーっ……!」
掬わなければ、全てが地に沈む。