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第17話 無情

 一夜を見た来贅の目が、興味深そうに動いた。

「ほう……?」

 その目線に、この男も一夜に何か気づくものがあったのだと分かった。

「咲耶」

「はい」

 一夜をこれ以上、来贅に近づけさせる訳にはいかない。

 咲耶の指がそっと動くと、一夜の足を止めた。

 俺は、周囲に目を動かす。

 ……気になっていた。

 殆どの呪術師が、ここに集まっている。


 静かな声で差綺に訊く。

「……丹敷は……何処だ」

 差綺の張った網に触れれば、丹敷にも分かる。

 丹敷のあの時の言葉からしても、差綺に何かあれば、あいつは黙ってはいないだろう。

 それなのに丹敷の姿が見えない。

「丹敷は何処だ、差綺」

 ……遅かったか。

「……貴桐さん」

 差綺の指が、力なくも上を差す。

「……見つかったって……丹敷が先かよ」

 俺は、小さく舌打ちした。

 差綺が網を張った時点で、丹敷はここに来ていたって事か。

 枝に張り巡らせた網がもう一つ……あれは丹敷が張った網だな。差綺の網より、網目が粗い。

 その網の上に、丹敷が絡んでいるのが見えた。

 ぐったりとした様子で、絡んだ網に身を委ねている。

 差綺の手がそっと俺の腕に伸びる。

「……貴桐さん……」

 差綺が首元にある蜘蛛の印にそっと触れた。

「差綺……」

「……これが……あるから」

「差綺……お前……」

「丹敷なら……大丈夫だから」

 差綺は、ニッコリと笑みを見せ、俺の腕を掴むと地に足を下ろす。

「おい……差綺」

「大丈夫だから」

 繰り返されたその言葉に、俺の目が一夜に動いた。

 一夜は、少し怯えた目を見せて、こっちを見ていた。


 ……大丈夫……だから……か。


 一夜の頭に触れた時に読んだ、一夜の思考。

『僕は……大丈夫』

 一夜もその言葉を繰り返し使っていた。

 大丈夫。大丈夫と。

 一夜が俺たちに助けを求めて来たのは、自分の事よりも残してきた者の事で、そいつの為に出来る事を探した結果だった。

 塔に殺されたという夫妻の息子だ。

 その二人の関係は、差綺と丹敷によく似ている。

 互いに置ける信頼はとても厚く、兄弟のように寄り添い、絆も深い。

 自分の身さえ犠牲にしても、相手を守ろうとする思いが強かった。

 その為なら……どんな事でもする、と。


 来贅の俺を見る目線が、俺の心情を問うように動かない。

 そしてその目は、執拗に俺に選択を問い続けている。

 ……ふざけるな。

 本当に守りたいものは優先しろなどと…… たった一つだけを選べというのか。選ばせようというのか。

 俺の様子に気づいた来贅が、クスリと笑った。

「……来贅」

「何を躊躇う事がある? 簡単な事だろう?」

 その言葉は、全てを守る事など出来ないと突き付けている。

 だが俺は、全てを守る方法しか求めていない。

 だから尚、俺自身が慎重にならざるを得ない状況は、その判断が間違ってはならないと確実さを求める。

 相手は精霊の力を手に入れたという男だ。

 ……どれ程の力を持っているという……?

 嘲笑するような笑みを見せると、来贅は言う。


「必要なものと不要なものを切り分ければ済む事だ」


「……ふざけるな」

 来贅が笑みを漏らした後、数秒違わず、丹敷に絡みつく網が軋む音がする。

 丹敷の苦痛を訴える声が、小さく漏れただけで止まり、丹敷の体が落ちて来た。

「……っ!」

 ……体が……。

 体に食い込んだ網が、丹敷の体をバラバラに切断していた。

 俺は、ギリッと歯を噛み締めた。

「来贅……テメエ……」

 ……こいつ……俺の判断を急かしやがった。


 来贅は、またクスリと笑みを漏らすと、冷ややかな目を俺に向けて言った。


「おや……? 必要……だったかな……?」

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