それぞれの道
その後、塔はなくなり、呪術医たちは診療所をあちこちで開き始めた。
圭たちの診療所に現れたペイシェントたちは、心臓も戻り、紗良の力もあって、治療を続ける事が出来、快方に向かっていた。
圭と一夜も呪術医として、圭の両親が残した診療所を再開した。
侯和と亜央の隔たりも消え、互いに助け合いながら呪術医を続けているという。
圭が綺流を呼び出したのは確かな事だった。一夜が俺たちの元に助けを求めて来た時に、やはり干渉した事に気づいていたそうだ。
『あなただけは生きて下さい』
互いに込めた、込められた思いが繋がり、託し、託された。
来贅の為にと力になった事が、来贅には、その姿を作り出せる可能性を手にしたと思った事だろう。
時が経つにつれて思い描く姿は霞み、頼りにしていたのは最期に残された言葉だけだった。
圭の側にいた『彼』に、感じるものはあっただろうが、自分の手によって作り出されたものではない。圭の持っている知識とその能力を欲し、圭を取り込んだ後に綺流の姿を自分の手で作り上げようとしたのが、あの部屋で見たものだ。
だが、似ているようでその姿は似ていなかった。不足を感じた事に限界を知った事だろう。
……報われないと嘆く声が聞こえた。
役に立たないなら捨ててしまった方がいいと……守り通してきたその心臓を捨ててしまっても。
『全てを取り替えて、新たに作り直す事が出来たなら』
その思いが強く表れた瞬間だったのだろう。後悔に気づきながらも。
俺たちも元の暮らしに戻ったが、宿となった咲耶から呼び出された等為と可鞍は、呪術師たちが戻ってきても、その姿は消える事はなく、俺たちと行動を共にしていた。
「……何しに来たんだよ?」
「なんだよ、折角会いに来てやったのに、もう少し、いい顔したらどうなんだよ?」
宿木が見える部屋。椅子に深々と座る俺は、不機嫌そうにも俺に会いに来た侯和を見た。
「それはお前の勝手な約束だ」
「貴桐……お前の皮肉は相変わらずだな」
「俺に会いに来る暇があるんなら、お前に会いに来た、時間を無駄に出来ない奴に会ってやれ」
俺は、ニヤリと笑みを見せると、こう伝えた。
「一人でも多く救うんだろ? 呪術医?」
侯和は、そうだなと頷くと、張り合うように言ってくる。
「お前もだろ、呪術師。いや……こう答えようか?」
「なんだよ?」
俺は、眉を顰める。
侯和は、俺を真似るような笑みを見せて口を開く。俺は、その言葉に顔を引きつらせた。
「主様?」




