第31話 声
呪術師は罪を作ったと……代償を求められる。
呪術は信用しても、呪術師は信用しない。呪術師嫌いの理由は、俺からしても同情の余地はあった。
失いたくないものを失った時、込み上げる思いは変化を余儀なくさせる。
今の俺たちには関係ない事だとは言えはしない。確かにその術は、伝わり続けているのだから。
だが……。
俺は、二人の姿を見つめながら、深く息をついた。
「何が……どうなったんですか……?」
一夜が俺にそう訊いた。
その声に振り向く俺は、一夜の表情を窺った。
どう思うだろう。少しの心配はあったが、差綺が俺に耳打ちする言葉に頷いた。
『大丈夫』
「あの……」
一夜の目線が浮かぶ二人の姿へと動いた。
白く長い髪が揺れると、その顔が見える。
『一夜が彼に似ているんじゃない。彼が一夜に似ているんだよ』
一夜の目にも映ったその姿に、一夜は驚きもせず、見続けていた。
俺は、一夜の肩にそっと手を置いた。
「貴桐さん……」
俺を振り向く一夜に、俺は静かに頷くと、口を開く。
「……生まれ変わりって……信じるか?」
「……どう……答えたらいいのか、分かりません。でも、僕は、そう信じて欲しいと伝えられているんでしょうね……」
「死者は月に留まり、雨になって地に戻り、植物によって取り込まれて実を成し、その実を摂取した者が種となり、種を注いで新たな生命を誕生させる……誰が気づくんだろうな。時を長くして存在したものに」
「それは……想起出来ないからですか……? 魂の記憶……ですよね」
「その声を……聞いたんだろう」
「貴桐さん」
俺を呼ぶ圭に目線を向けた。
「俺……あなたの主様に会った事があるんです」
「ああ、ジジイがお前の父親に会いに行ったんだろ。ジジイが表に出なくなったのは、死ぬ十年前くらいだ。お前の父親が一夜に術を使ったのもそのくらいの時期だった。そして塔が建ったのも同じ頃……これが偶然とは言えないだろう。生死を分ける程の強い力だ。ジジイが気づかないはずがない」
「……ええ」
「仮の主は、主と同等の力を持つ……そしてお前の父親は呪術医だ。理解出来ているなら……使えても不思議はない」
「だから……俺にやらせたんですね……」
「ああ。呪術医は、あり合わせの『材料』でブリコラージュする事が出来るブリコルール。それが……目に見えない『材料』であったとしても、継承者なら掴む事が出来るからな」
「干渉したんです。それが一夜に飛び込んだ……それを目にした者は奇跡だと、見様見真似で共有し始めた……分散してしまったその知識は、呪術医同士の対立を生み、肯定出来る思想に傾いた……」
「それが来贅の思念を呼び起こしちまった。来贅は呪術師を恨んでいる。だが、その呪術によって生き永らえた事は確かだ。呪術は信用しても呪術師は信用に値しない……医術と呪術を使う呪術医が、その生命を持続させる事が出来る最高権力者。捨ててしまっても、捨てきれなかった思いがあったのは来贅も同じだ」
俺は、長い溜息をつくと、圭に訊いた。
「圭……お前は、聞こえていたんじゃないか? だからお前は塔に入ったんだろう? その声を伝える為に」
「……そうですね。それが……」
圭は、遠くを見ながら、こう答えた。
「父さんの最期の言葉だったから」