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第28話 受

「待ってくれ……!」

 亜央の声が俺を止める。

「……なんだ? もうここで話す事は何もねえよ」

「貴桐さん。早く行こうよ」

 差綺が俺の腕を引っ張る。

「ああ」

 俺は、分かっていると頷いた。


「力そのものを守る……主は器……待ってくれ……」

 亜央は、混乱しているようだが、理解出来るだけのものは揃っているだろう。

 ただ、繋げる順番を考え直しているだけだ。

「あの書物……仮託だと……主様が……書いたものなのか……?」

 その言葉を聞く俺は、クッと肩を揺らして笑った。それが肯定されたという事に亜央は、納得出来ただろう。


「『心臓に宿し力を持った者。死を見る事、永遠に叶わん』だから……解放してやるんだよ」

「……勝手な思いだった事は分かっている。だけどそれでも……その姿を取り戻したかったんだ。主様自身が、追い求めた姿に変わろうとしてまでも」

「……それでも……身代わりになってまで生きて欲しいと願った者も、同じ思いがあったからだろう。だから身代わりになったんだ」

「……ああ、そうだな……」

「だが……同じ姿じゃなかったとしても、そこに寄り添っていた思いに気づくべきだったんじゃないか」

「綺流……か」

「あれ程までの力を得てしても、探し求めていたものは違うものだった。手に入れようと探し続ける為に、その力を利用しただけだ。そして、それでもいいと側にいた者の思いとは逆に、その姿が重なる事を求めていた。その姿は一つ、その心臓も……な。守り続けてきたその心臓は、元々は綺流のものだ。身代わりになった綺流のな。生きて欲しいと望んで手放したものを返すと言ったって、自分の命を差し出す程の覚悟だぞ。その思いは、そう簡単に揺るぎはしない」

「……解放するって……浄化するって事なんだろ? だからあんたは主様を殺さずに受け入れた。侵食されるかもしれないと分かっていながら」

「ふん……買い被るな。殺したいと思う程、人を憎んだのは初めてだ」

「だけどあんたは誰も殺していない」

「はは。死ぬ事がないと言っている奴を、どう殺すって言うんだ? 俺は、奴が折った宿木を掴んだだけだ」

「宿木を掴んだ……」

 亜央の目が咲耶へと向いた。咲耶は、何も言わずに頷いた。

「来贅は、主なんだよ。主交代の布告をし、その座を手にする事が来贅にとっての追求だった。呪術そのものは信用しても、呪術師は信用しない……呪術を使う者がその力量に達していたなら、失敗などする事もなかった。力量の書かれないその(すべ)は、見様見真似で伝えられた。お前が読んでいたあの書物を、俺は知っている」

 そう言うと俺は、止めた足を踏み出し、擦れ違い様に亜央に言った。


「亜央……お前も、帰る場所に帰って、やるべき事があるだろ」

「……ああ」

「次に会う時は……いい顔してろよ」

「はは……あんたが俺に会いに来る事なんて、ない方がいい」

 亜央の言葉に振り向いた俺に、亜央は静かに笑みを見せてこう言った。


「俺は、呪術医だからな。俺に会いに来るのはペイシェントだけだ」


 亜央の言葉に俺は、ふっと笑みを漏らすと、そうだなと頷いた。

 重くも静かな亜央の声が、僅かに震えながら俺に伝えた。


「……主様を……頼む。受け入れてくれた事……感謝するよ」

「その言葉……綺流が残した言葉だろ」

「ああ」

 正直……その思いは分からない訳じゃない。

 自分の前からその姿が消えてしまった事に、真正面から向き合えはしない。

 死というものに感じるものが諦めである事を、認めたくはない。

 それでも……。


「……受け入れるのと受け止めるのは違うだろ。俺は受け入れた訳じゃない」

 歩を踏み出すと同時に、はっきりとした口調で言葉を置いた。


「受け止めたんだ」

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