第27話 同
「お前が言っていた通り……呪術医がだろ」
「……ああ、そうだ」
「主を殺すか主を守るか、その思想は分かれたはずだ。だが……分かれた思想は対立を生むが、殺すと守るは同じ目的に辿り着く」
「同じ……目的? そんな事……」
俺の言葉に亜央は、驚いた顔を見せた。
真逆の思想に重なるものなどないといった様子だ。
「圭」
俺の圭の呼び声に、圭は頷きを見せると、俺に代わって口を開いた。
「だから……継承者がいるんです。仮の主という継承者が。話した通り、仮の主は精霊の意向を証明する者です。主だと示す事が出来るそのレガリアは、次の主に託す為に干渉します。当然、その力は主を守る為に作用しますが、逆にその力を守る為に主を殺すんです。亜央さん……これは、あなたが言っていた主殺しの話に繋がるんですよ」
圭の後を俺が続ける。
「簡単に言えば、主は『器』であって、そこに宿る力を留める事が出来るかどうかだ。その力を維持出来る主であれば、主自身が崇められ、維持する事が出来なければ、その力が消えてしまわないように守る。これが主殺しに繋がるって訳だ。要するに力を持つ者を守るか、力そのものを守るかって事だ。だから力を維持出来ない主なら、力を保てなくなる前に主を殺す……それが安泰を持続させる方法だ。そもそも、力を宿せない主は、干渉などされる事もない。いくら望もうと、な」
「……そう言うのは……主様には……その力を持ち続ける事が出来なかったって事……なんだよな……?」
「その力ってなんだよ?」
「俺は……いや……」
亜央の言葉を拾って訊く俺に亜央は口を開いたが、口籠もった。
それもそうだろう。
亜央が求めていたものは、来贅にあると思っていたのだから。
「だけど主様は……その術を持っていたから、この塔が出来たんだろ……」
「じゃあ、なんで全ての呪術医をこの塔に集めなくちゃならなかったんだ?」
「それは……」
「捨てちまったからだよ」
「捨てた……」
「役に立たないと捨てちまったんだ。その知識も、その術も……な」
そう言って俺は、侯和と亜央へと視線を向けた。
じっと二人を見る俺。侯和が怪訝な顔を見せる。
「……なんだよ……貴桐……?」
俺は、二人を見たまま、一呼吸置くと口を開いた。
「『大丈夫』『心配するな』限界を知った呪術医は、その言葉を二度と使わない」
「……貴桐」
俺の言葉に侯和が、悲しげな表情を見せる。
俺は、その表情をじっと見つめたまま、言葉を続けた。
「約束になると分かっているだろう。だがそれは、約束が果たされると確信出来るまで、使わないと決めたのと同じだ。その確信さえあれば、迷う事なく言えるようになるだろう?」
そう答えた俺に、侯和と亜央は互いに目線を合わせて小さく息を漏らすと、俺へと目線を戻し、静かに頷いた。
「行くぞ」
止めた足を踏み出す俺の脇から、差綺が顔を出し、クスリと笑みを漏らす。
楽しそうにも興味深そうな目を俺に向ける。
……まったく。
俺は、呆れながらもふっと笑った。
「まだ解放してねえよ」
「そうだね。でも大丈夫」
にっこりと笑みを見せる差綺の頭へと、俺は手を伸ばした。
『ダメだよ……貴桐さん』
あの時は、俺の手が触れる事を拒否していた差綺。
だが今は。
この俺の手を引き離そうとはせずに、笑みを見せていた。




