表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/168

第25話 威

 ああ……そうだったな。

 咲耶が俺を心配するのは、今に始まった事じゃない。

 それでも咲耶は、心配しながらも俺を止める事はしない。

 そして……。


 俺が問う事を否定しない。


『全て……読まれましたか?』

『……いや』

『それでも……分かっていたんですよね……?』

『ああ』

『それなら何故……』

『読んだのか?』

『はい……全て読みました』

『……そうか』

『貴桐さん』


「貴桐さん……!」


 ……咲耶。


『じゃあ……話は早いな』


 開けた目に映った咲耶に答える俺は。

 咲耶の目にどう映っているのだろう。


「咲耶……俺はまだ……俺のまま、か?」


 ……咲耶の目を見れば分かる。本当は……。


 あの時……訊いた時と同じように、少しだけ俯いて、直ぐに顔を上げ、穏やかに微笑んで答えた。


「いつもと少しも変わっていませんよ、貴桐さん。勿論、これからもずっと」


 あの時と……同じ言葉だ。

 俺は、咲耶へと手を伸ばした。咲耶が直ぐに俺の手を取った。


「……そうか」

 咲耶の手を掴みながら、そう答えて立ち上がった。


『許容を超えれば侵食される……そう書いてありました』


「じゃあ……行こう。最後の……仕上げだ。帰るぞ」

「はい」

 歩を踏み出す俺に合わせて、咲耶も歩を踏み出した。


「……ついて行きます。何処まででも。例え……『望まないもの』を掴んだとしても」


 俺と咲耶の後に、差綺と丹敷がついた。


「……貴桐さん……」

 俺の前に一夜が立った。

 足を止めた俺は、一夜を真っ直ぐに見た。


「目が……」

 ……正直な奴だな。

 俺は、一夜の肩をポンと軽く叩くと、一夜の脇を抜ける。

「貴桐さんっ……!」

 一夜の呼び声を背中で聞いた。


「……最期の言葉は聞けたか?」

 俺を気にする一夜だったが、俺はそこには触れず、そう訊いた。

「……はい」

「そうか」

 一夜のトーンの落ちた声に、一夜の優しさが伝わってくる。

「……帰るんですか……? 元の場所に」

 俺は答えずに、肩越しに一夜を振り向いた。

 俺の目を見る一夜は、翳った表情で口を噤む。

「……そんな顔をするな」

「だって……」

 口籠もりながらも、俺の目をじっと見る一夜に、俺は笑みを見せた。


「俺の目の色は元々、この色だ。だから……心配するな」


 止めた足を踏み出した。

「貴桐さんっ……!」

 一夜の手が俺を掴む。

「僕も……行きます。連れて行って下さい」

「…… 一夜」

「僕も行きます、貴桐さん。だって貴桐さん……あなたは……」


 俺は、一夜から目線を外すと、ふっと笑みを漏らした。

 瞬きをした後に映した目に、ここで見たいと思うものはない。視点を定める事なく、先へと目を向けているだけだった。

 ただ俺の頭の中には、全ての知識が揃っている。


 そもそもネクロマンシーは、その『気』を呼び出し、情報を得る為の占術だ。

 そしてこの占術は、同時に知識を得る為に……。


 奴が俺の前に現れた時に言った言葉。

『私は……交渉をしに来たんだよ』


 権威を持って交渉する。その知識を得る為に。


「来贅に『生』を与えたんですよね……? 貴桐さん……あなたの体を使う事で……です」

「……はは。まいったな……」

 俺は、苦笑しながら片目を手で覆った。

「……貴桐さん……」

 片目で一夜を見る俺に、一夜が辛そうにも顔を顰めた。


 俺は、ふっと笑みを漏らすと、一夜に言った。


「それが……こいつの望みだからな」


 ジジイ……。


『望む事、全て、思いのままに』


 あなたが背負い続けた『代償』は、俺が全部……掬って帰るから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ