第24話 立
「来贅が不利に傾いたからって……どういう……? 何……言ってんだよ、差綺。だって……その前に一夜と圭次第だって言ったよな? あの時、一夜と圭がヤバくなったから貴桐が動いたんじゃねえのかよ?」
「うーん……丹敷に言って分かるかなー」
「差綺、テメエ。俺をなんだと思ってる?」
「え? 知りたいの? 傷つかないって言うなら答えてあげるよ、丹敷?」
「……答えなくていいよ。それを言っている時点で、傷つく事だと言っているようなもんだろ……」
「あはは」
「あ? 笑ってんじゃねーよ。このまま貴桐を放っておいていいのかよ?」
「うん。大丈夫」
「この状況の何を見て、大丈夫だって言えるんだよ?」
「大丈夫だよ、丹敷」
……差綺。
俺を見るその目は、初めて会ったあの時と少しも変わらない。
本当に、不思議な奴だ。
興味深そうに俺を見て……穏やかに笑う。
俺の事を全て知っているかのように。
「媒体で繋がるという事は、与える側と与えられる側に分かれるんだ。来贅が不利に傾いたという事は、与えられる側になったって事。貴桐さんは、与える側に立っているって訳。丹敷……よく思い出して? 宿木は、宿主から全てを奪う訳じゃない。必要なものがそこにあるから宿る事が出来るんだよ」
「……ちょっと待てよ……貴桐が与える側って……」
丹敷の強張った表情が俺に向けられた。
『心配するな』丹敷。
そう目で伝えたが……届かないか? 仕方のない奴だな。
はは。まあ……これが丹敷らしいといったところか。
差綺がクスリと笑う。咲耶の手に握られた宿木の枝に、指をそっと触れた。
「宿木は、宿木自体で生きられない訳じゃない。だけど宿木は、寄生する事で存在出来る。それは不足を補う場所が宿主にあるからなんだよ。不足を補えるところを見つけた宿木は、その宿主から離れる事は出来ない。勿論……殺す事もね。それって……」
ゆっくりと瞬きをする差綺の、再度開かれた目は、赤い色をキラリと輝かせた。
「もう……そこに留まるしかないよね……?」
差綺がクスリと笑う声が耳に流れる。
……まったく。どんな顔してその言葉を言っているのか、想像つくな。
「おい……差綺」
一向に俺から離れようとしない来贅を見てだろう、丹敷は不安な声をあげ続けた。
「大丈夫だって言ってるでしょ、丹敷? だって……貴桐さんは……」
宿木を宿していたあの木の枝から顔を覗かせた少年は、楽しそうに笑っていた。
『あはは。見つかっちゃった』
差綺は、俺が来るのを待っていたかのように、干渉する為の網を張っていた。
差綺には全て見えていた。そして俺も見る事が出来た。
俺が……全てを掬えるように……と。
『心配するな』
その言葉が呪縛となって絡み付いて。
『大丈夫』
その言葉が絡み合って繋がった。
『貴桐……お前は、黙って沈みゆくものを眺める傍観者になれるか?』
ジジイ。約束した通りだ。
「全部……掬ってやる」
来贅の手が食い込むように入ってくる。俺は俺で、奴の背に回した腕に力を入れた。
そのままの体勢で指を動かし、奴の背中に文字と円を描く。
描き終わると、パッと白い霧が舞い上がった。
指を弾くと一瞬で消える。
同時に俺は、結界を解いた。
頭から流れる血が額を伝って目に入り、目を閉じた。
「貴桐さんっ……」
俺を呼ぶ咲耶の声が響いた。
『宿木の枝が枯れない限り、僕たちの主は倒れる事はない。例え……その体に傷をつけようとも……ね?』
俺は……。
差綺の言葉を聞きながら、俺は目を開けた。
「だって貴桐さんは『主』なんだから」
『主』だ。




