第21話 交
座り込んだままの俺を、見下す奴の目は変わらなかった。
考えているようには見えないが、言葉なく、じっと俺を捉えている。
俺は俺で、その目を真っ直ぐに受け止めたままだ。
「俺とお前の周りに結界を張っている。邪魔は入らない。ゆっくり考えろよ」
「お前にはもう全て見えているから……か。私が何を選ぶかという事も」
「俺にだって見えないものはある」
「お前らしくない発言だな。私がどちらを選んでも、お前の命は私の手によって落ちるという事だぞ。お前の事だ。諦めたとは到底思えないが? お前が黙って命を差し出すとは考えにくいな。何の真似だと真意を問うのが当たり前だろう」
「ふん……随分と警戒心が強いもんだな。それを言うなら俺も同じだ。お前らしくもない。警戒などしなくとも、お前ならどうにでも出来るんじゃなかったか? 手に入れたくて仕方がなかったものが、ここにあると言っているんだ。お前……自分の言った事、本当に覚えていないのかよ? 俺がお前に問う言葉は、全てお前が俺に言った事だぞ」
俺は、口元を歪めて笑うと、奴の目をじっと見つめて言った。
「『必要なものと不要なものを切り分ければ済む事だ』」
「……貴桐……」
不満そうな顔を見せながらもそれ以上何も言わないのは、募った悔しさが言葉を浮かばせないのだろう。
「だから……間違えるなよ、主様。俺は、お前が言った事に従う。それでいいだろ」
俺と来贅の位置は変わらない。奴は俺を見下すように立ったままで、俺は奴を座って見上げている。
横目に侯和の視線を感じていた。
ふん……別れ時みてえな顔しやがって。
そんな悲しい顔するんじゃねえよ。馬鹿侯和。
自分だって……命賭けるくらいの事、やったんじゃねえか。
ちらりと侯和に視線を送る。
ふっと漏らした笑みに気づく侯和は、文句を言いたそうな顔を見せた。
悪いな、侯和。
俺はお前に言いたい事を言わせて貰うが、お前が俺に何を言おうとも黙らせる事が出来るからな?
それはお前だって分かっている事だろう?
言いたい事いいやがってって、いつも不満そうだもんな、侯和。
暫くの間、黙って俺を見下ろしていた来贅だったが、ストンと座り込んだ。
近い位置で向かい合う俺と奴の目は、互いを見たまま動かない。
ずっと……思っていた。
生き続けなければならないという、生に対しての執着が何にあるのかを。
集められるだけの呪術医を集め、建てられた塔。
この塔の中で呪術医たちが作り上げてきたものは、互いの位置を競い合った結果のヒエラルキー。
これが出来ればこうなれると高みを望んだ結果は、この塔の主の思想に傾いた。
だが、元々その思想は、奴の中にあったものではなく、奴にとっての希望だっただろう。
『その『材料』があれば、死者さえも生き返らせる事が出来ると、望みを与えたのはお前たち呪術師だろう?』
「……私は」
奴がゆっくりと口を開いた。
そして、俺へと近づくその手は。
『心臓に心があると思うか?』
『……呪術医なら……知っているさ。お前に答えたように、心があるのは脳だってな』
『それが呪術医にとっての『常識』ってやつだろ』
『貴桐……?』
俺の頭に触れた。