第20話 変
「タブーに手を染めた医術師の話……興味あるだろう?」
俺を見下すように立ったままの来贅の目を、じっと捉えていた。
「……お前に何が話せる」
少し間を置いて、低く静かな声が降り落ちた。
「話せるさ……全て、な」
「全てだと……?」
奴の声を聞きながら、俺はゆっくりと瞬きをする。
そして、奴の目をじっと捉えて、俺は言った。
「ああ。全てだ」
はっきりとした口調で告げた事に、来贅の目つきが変わる。
本当に知っているのかどうかは、奴にしてみれば疑うところだろうが。
こいつが数百年存在しているというなら、そんな大昔の事など、知っている者はいないと思うのが当たり前だ。
俺は、奴を捉える目を動かす事はなかった。
そんな俺の目を、奴も捉えていた。
知っていると信じたとしても、だからといって、聞きたい訳ではないだろう。
だが、俺が本当に全てを知っているのかは知りたいところだろうが。
それによっては、奴にとっての動きが大きく変わる……はず。
まあ……何にしても、この一言で、俺が知っているかどうかは分かるだろう。
「お前が呪術師が嫌いな訳が納得出来るよ」
そう言った俺を見下ろす奴の目は、冷ややかではあったが……。
ふん……ようやく……。
歯を噛み締めた事だろう。奴の口に、僅かにも力が入ったのが分かった。
俺を睨む目が、その感情を見せている。
こいつには、そういった感情がないのだと思わせるような態度も、余裕の表れかと思っていた。
見下すような不敵な態度も。
だが、それは全て逆だ。
こいつはいつだって、自分が見下ろせる位置に立ちたがる。
そして、相手に対しての選択は、自分の手の中に収められる選択だ。
どの選択をしても、その選択には自分の力を加える事が出来る。自分にとって不利はない。
だが……今はどうだ……?
俺が出した選択肢で、お前にとっての利点は何処にあると思っている?
それが選択出来ない限り、お前には無理だ、来贅。
俺は、冷ややかな目線で見下す奴の目から目を離さず、言葉を続ける。
「呪術そのものは信用しても、呪術師は信用に値しない。そりゃあ、そうだよな? 呪術には明確な目的がある。呪術の使い方は、言葉で伝えるには簡単な事だ。呪術を理解させるだけのロジックに過ぎない。だが……呪術師の能力次第でその効力は変わるだろう。呪術師だからといって、完璧な結果を出せる訳じゃない。例え必要な『材料』が揃ったとしても、だ。そこに力量の差は書かれないからな。なあ……どうだ? お前の目に止まった俺は使えそうだろう?」
俺は、ニヤリと口元を歪めた。
来贅の目が、鋭く俺を見る。
その表情を見て俺は、更に言葉を続けた。
「その力を持ってしても、いまだ叶わないのは何故なのか……お前はとうに答えを知ったはずだ。この塔がその結果だろう? だが……残念だな」
一瞬だけではあったが、来贅の表情が悔しさを表した。当然、俺は見逃さない。
俺は、奴を差すように指を向ける。
そして、不敵にも笑みを見せて言った。
「ようやく……その顔が見れたな。本来の目的を変え、その名を変えた……呪術医。さあ……選べよ。それでお前の望みは全て……」
俺は、奴を指差したまま、選択を迫った。
「思いのまま、だ」