第16話 死
『だから……呪術師は嫌いなんだよ』
来贅の言葉を思い浮かべながら、俺は綺流を見ていた。
呪力が強い『主』程、周囲に与える影響は大きい。
当然それは、呪術師以外の者たちからも望まれていた力だろう。
俺たちが……町の人々たちから頼りにされていたように。その行いは、昔から続いてきたものだからこそ、俺たちにとっても日常的なものになっていた。
だが……それでも。少しずつ、変わっていったものはある。
強制的でもあった主殺しは、昔の話だ。
当時、無念であっただろうその事象は、強い呪力によって呪いを伝える……書き残された『媒体』によって。
「だから……解放してあげるって言っているんだよ……来贅」
一夜の声に視線を変えた。
「その胸に宿った思いから解放してあげるって言っているんだ」
「……そんな事など……望んでいない」
一夜を睨む来贅。だが、来贅を掴んでいた一夜の手が、そっと離れた。
「何の真似だ……?」
「真似……?」
「お前が言ったんじゃないか。僕自身が模倣だとしたら、どう否定するかって……」
「お前……」
「僕は……似ているだろ。来贅……お前が宿したその姿は、お前の思い通りにはならない。何故かって……白く長い髪……蒼い瞳……来贅……お前が覚えているのは、それだけなんだよ」
一夜の言葉に、来贅が初めて凍りついた表情に変わった。
「誰が誰だか、分からなくなっちまったみたいだな。何度も試すからだ」
そう言うと俺は、一夜を掴む来贅の手をそっと下ろした。
「……貴桐さん……」
一夜の目線が俺に向いた。
「大丈夫だ、一夜。圭がお前を守ってくれる」
「圭……圭は……圭は何処……」
一夜の目が圭を探す。
「準備出来ました」
圭が部屋から出て来た。
「圭……!」
一夜の声に頷きを見せる圭に、俺は訊いた。
「何を使ったか……分かっているだろ?」
「はい。ネクロマンシーで……合っていますよね?」
「ああ。合っている。いわゆる降霊術だ」
「……よく……分かりました」
「その術は一時的だが、生き返ったように命が宿る。だから間違えるんだよ。だが……そこで使った『材料』は骨……その姿を作り出すには、記憶が必要だ。なにせ『気』しかないんだからな。あっちはお前に任せるぞ、圭。最期の言葉を聞いてやれ」
「はい」
「貴桐……」
来贅の目が俺に向く。
その瞬間に来贅の両手が俺に伸びた。
「「貴桐さんっ……!」」
一夜と圭が来贅を引き離そうと動いたが、俺は結界を張って一夜たちを遠去けた。
来贅に押され、床に倒れる。
「貴桐……お前は占術を使うんだったな……それなら……お前の中にあるという事か」
来贅の手が俺の胸に沈んでくる。
「そうだな……ネクロマンシーの基本は占術だからな……」
言葉を吐き出せば、体に響いて血も吐き出した。
「貴桐さんっ……!」
咲耶の叫びが悲しみを伝えてくる。
それでも近づけないもどかしさが、俺の名を呼び続ける。
「貴桐さんっ! 貴桐さんっ! 貴桐さんっ……!」
……咲耶。
俺が張った結界だ。お前でも破れはしない。
来贅の手が、俺の頬へと伸びた。
「ようやく……見つけた……」
生温い感触が頬を濡らす。
互いに合わせた目線。
来贅の胸から雫が落ちてくる。
落ちてくる雫を受け止めながら、俺はふっと笑みを見せた。
「貴桐さんっ……! 行かないで下さい……! 僕を置いて行かないで下さい……! 貴桐さん……! 嫌だーっ……!!!」
届かない手を伸ばし続ける咲耶を見ていた。
「……泣くなよ……馬鹿だな……咲耶」
俺は、悲痛に叫ぶ咲耶に、うっすらと笑みを見せて呟いた。
「『心配……するな』」
咲耶……お前なら分かるはずだろう?
『願い』も『呪い』なんだと……な。