第13話 忌
「衰退などしていないだろう若い時期に、主を殺す」
亜央の言葉に、侯和の息遣いが乱れたのが分かった。
「それが……身代わりって事なのか……?」
そう答えた侯和の声は震えていた。
俺は、手にした書物を持ったまま、圭にその場を任せ、一夜たちの方へと戻る。
香の香りが俺についてくるようだ。
「……貴桐……」
侯和の強張った表情が俺に向いた。
「なんだよ?」
平然と言葉を返す俺に近づいて来る。
「お前……どうして……」
「何も言ってくれなかったんだって? はは。お前が何も訊かないからだろ?」
「笑って言う事かよ? 貴桐……例え訊いたとしたって、お前は答えはしなかっただろ……答えねえだろ……! 意味ありげな言葉だけ置きやがって……! 骨くらい拾えるだろって……お前……!それがお前の骨とか言うんじゃねえだろーなっ! ふざけんなよ……! そんな役回りはゴメンだ!」
焦りを見せる侯和に、俺は書物を渡した。
「貴桐……」
「お前に『媒体』を託す」
「媒体……」
書物に目線を落とす侯和に俺は言った。
「選択しろ」
「選択……?」
「選択しろよ。呪術医」
そう言って俺は、ニヤリと笑みを見せた。
「貴桐……」
「それは『共有』していいものか、お前が決めろ」
「俺が……?」
侯和は、書物を開き、目を通す。
「これ……」
書物に落とした目線が、圭のいる部屋へと向いた。
そして侯和は、自分の目で確かめようと圭の方へと歩を進めていく。
「お前がその媒体をどう使うか……お前に託す」
侯和と擦れ違う俺は、そう静かに呟いた。
「おい……」
亜央が俺に声を掛けた。
目線だけ動かして亜央を見る俺は、奴の言葉を待った。
「出来るというのか……? あんたには、それが出来るというのか……?」
「何の話だ」
「惚けるなよ。俺にだってそれくらい分かる」
「だろうな。お前が集めていた書物は、その事に関してのものが殆どだ。じゃあ訊くが……」
亜央へと体を向けて俺は言った。
「どれが使えそうだ?」
真っ直ぐに向ける俺の目から、亜央は目を逸らした。
少し俯き、目線を下に落とすと、重くも口を開いて答えた。
「……どれも……使えないさ」
「ふん……いい答えだ」
亜央の目線が俺に戻る。
「はは……やっぱり……呪術師には……あんたには敵わないな」
亜央は、長い溜息をつくと、苦笑を漏らした。
「侯和についてやれよ、亜央。ここにある全ての書物に目を通して、出した答えがそれなら、何が違っているのか分かるはずだろ」
「……違っている……か。どうしてだろうな……」
「なにがだ?」
「その違いに気づくのは、使ってからじゃない。使う前に気づくんだよな……だから呪術師は、その能力が元々組み込まれている……そんな答えが成り立つんだよ」
「ふん……見様見真似……それで成り立つ事もある。起こした事象が使ったものに対しての答えになるだろ」
「それが……逆って事なのか」
「ああ。タブーだ」
「じゃあ……なんでそんな書物が残るんだよ……タブーならそんなものに手など触れたりしないだろ……」
「タブーだからだろ」
「タブーだから……?」
咲耶が俺の動きを目で追っている。俺は、綺流の向い側へと歩を進めながら亜央に答えた。
「望まないものの方が容易に掴める。可能性が高いもの程、当然、成功へと繋がるからな。使っても何も起こらなければ、その書物に価値はない」




