第11話 主
俺は、侯和が言っていた事を思い浮かべていた。
『知識の共有は互いの能力を高めさせるものだった。それがいつしか、分け与えられた知識があちこちに分散して、それが誰のものかなど、分からなくなった。共有しておいて、誰のものか、なんて考える方が間違っているのかもしれないけどな……』
「回収するんだろ、圭」
再度、言った俺の言葉に、圭は深く頷いた。
「はい」
力強く返事をすると圭は、まだ蝋燭の火が揺らめいている部屋へと入った。
散らばったままの書物に骨。
来贅が描いた円は、引き寄せられるように圭の描いた円と交わり、一夜と来贅から流れ落ちる血が、一つになった円を掻き消していた。
「……侯和。ここを見ていてくれ」
「見ていてくれって……貴桐……もし何か事が大きく動いたら、俺にはどうする事も……」
俺は、ちらりと侯和を見ると、また一夜たちの方へと目を向ける。
そして、侯和にこう言った。
「骨くらい……拾えるだろ」
「どういう……意味だよ……それ……」
強張った表情を見せる侯和に俺は答えず、圭の後を追った。
「貴桐!」
「侯和さん」
俺に答えを求める侯和を、咲耶が止めた。
侯和を呼び止める咲耶の声は強く響き、その声が俺に向けられているようにも感じたが、俺が進める足が止まらない事に咲耶自身、思いを固めた事だろう。
「……咲耶……どういう意味だよ……なんで貴桐はあんな事を言う……?」
「……答えたくありません」
「咲耶! なんで……」
「……」
「……咲耶……知っているんだろ……お前は貴桐が何を考えているのか、分かるだろ……教えてくれよ」
「……答えたく……ありません」
咲耶と侯和の会話は聞こえていた。
「僕が答えたら……それが肯定になりますから」
「……咲耶……」
「侯和さん……貴桐さんは、僕たちの『主』なんです。だから……」
「従うだけだと言うのか?」
「……」
「違うだろう。そういう意味じゃない」
割って入るように、そう答えたのは亜央だった。
「亜央……」
「侯和。呪術師たちには風習がある。『主』を立てるのもその一つだ」
「だから……なんだって言うんだよ……貴桐が主なら……なんだって言うんだよ……」
「言っただろ……誰がより高い能力を誇れるかに集約し、その能力に伴う代償を誰が被るか……。それと同じような事なんだよ」
「代償って……だって貴桐は……代償って言うなら……それは払ったって……」
「初めから決まっているんだ」
侯和の動揺を遮るように亜央が言葉を続ける。
侯和たちの話を聞きながら、俺は一冊の書を手に取った。
「主の命は、主一人のものじゃない。全ての者を守る為に捧げられる命だ。主になる者は、その覚悟を持つ者でないと務まらない。誰だっていつ死ぬかなんて分からないけどな……だからこそ、その象徴ともなる存在を立てるんだ」
「……やめろよ……亜央……そんな話……今は関係ないだろ……」
「関係あるんだよ、侯和。だから俺は話している。主様が何故、彼を殺さずにいたと思っているんだ」
「……殺せない理由があるって事だと言いたいのか」
「ああそうだ。その理由を一番よく知っているのは、彼が言ったようにあっちって事だ」
亜央の言葉が、俺の耳を掠めていった。
「『主殺し』って聞いた事はないか? 侯和」




