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第9話 思

「一番の原因は、誰がより高い能力を誇れるかに集約し、その能力に伴う代償を……」

 亜央の言葉に動揺を見せたのは、咲耶だった。

 俺は、咲耶の動揺に気づかないふりをする。

「誰が被るかだ」

 亜央のその声と数秒違わず、塔の周囲が騒がしくなった。

「丹敷……!」

 声と共に入って来たのは、塔にいた時に丹敷と行動を共にしていた奴だ。

 ……丹敷、ねえ……。

 丹敷を心配して来たように見せてはいるが。

 どうかねえ……。丹敷は気づくかな……?

 そっちはお前に任せるぞ。


「何が起こっている?」

 丹敷が入って来た男に訊ねた。

「下層、中層がペイシェントたちの誘導を進めている。扉を閉めた呪術医たちが受け入れを開始した。だが……」

「だが、なんだ?」


「真っ二つに分かれてる。どちらに……つくかだ」


 始まったな……。


 来贅の手がピクリと動く。

「一夜っ……!」

 俺の呼び声と同時に来贅が一夜の胸へと伸びた。

「うっ……」

「一夜……!」

「圭!」

 一夜を助けようと間に入る圭を俺は止めた。

「なんで……! なんで止めるんですか……貴桐さん……! あなただってこんな事は望んでいなかったでしょう……!」

 俺は、一夜と来贅から引き離すように圭を掴み込んだ。

「一夜……お前を使えって……こんな事なのか……! 貴桐さん! 離して下さい…… 一夜が……離せっ……!」

「望まないものだからこそ、掴むしかねえんだよっ……!」

「どういう……意味ですか……望む事……全て……思いのままに……そう願ってきたものを……否定するって事ですか……その思いを遂げる事を……否定するって事ですか……」

 納得も出来ず、愕然とする圭に一夜が答える。

「そうだよ……圭……」

 そう口を開いたが、苦しさに顔を歪める一夜は、後の言葉を続ける事が出来ない。

 俺は、一夜に代わって圭に言う。

「お前だってそうだっただろう、圭。お前が塔に入る事は、望んでいた事だったか? それは一夜も、勿論、お前も」

「……貴桐さん……俺は……」

「それだって手段だったと言えるだろう。最終的な目的の為に、必要な手段で、最終的に納得するしかなかった手段だろ、互いにな。違うか?」

「……っ」

「だから……敢えて掴むんだ。圭……お前だってそうだろう?」

 歯を噛み締める圭。俺は言葉を続けた。


「『七日の命も変えられる術がある。身代わりを立て、気を入れ替える』」

「貴桐さん……」

 圭の不安な顔を見ながらも、俺は綺流を指差して言う。

「あっちなんだよ」

「え……?」

「あっち。お前……言っただろ。全て回収するってな。その自信は何処にいったんだ?」

「……持ってますよ」

「じゃあ、回収しろ。来贅の心臓……潰しただろ。それでも奴は倒れない。心臓に宿りし力を持った者……死を見る事、永遠に叶わん……だから、あっちだ」

「貴桐さん……」

「お前も呪術医なら分かるだろ。いや……呪術医なら分かるべきだ。『共有』したんだよな? 呪術医は」


『では……何故、香を焚くと書いてある?』


 ……初めから……言っておけよ……って。

 はは。

 口に出したくもなるな。


 ジジイ。


「初めから……言い過ぎだ」


 ジジイの声が聞こえるようだ。

 このタイミングで思い出した、ジジイとの会話。


 時が経つにつれて、曖昧になっていくジジイの声。

 俺が思い浮かべるその声は……変わっていないか? 合っているか? ジジイ。

 その言葉も(たが)う事なく。


『いい答えだ。貴桐』

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