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第7話 答

 ジジイは、香は焚かないと言った。

 だが、書物には香を焚くと書かれてある。

 俺が信じたのは、呪術師であるジジイの言葉であって、俺自身が得た知識を結びつけたら、納得出来る事だった。

 そうだとしたら……この書物は……。

 その呪術を見た事がある……第三者。

 稀に見る呪術なら、書き記しておこうと思った事だろう。

 香は焚かない……だが、香を焚くと書いたのにも理由があるはずだ。

「この書物は……仮託だからだ」

「いい答えだ」

 書物を返した俺に、ジジイの顔に笑みが戻った。


 ……いい答え……か。

 ジジイの言った言葉を思い返しながら、俺の目線は差綺に向いた。

 差綺は、一夜と綺流がいる円の中へと進み、二人の間を抜けて来贅の前に立った。

 差綺の口元が笑みを見せると、来贅に言う。

「僕の呪術は、人体に特化する」

 そして、圭の手を掴んだままの来贅の手を掴むと、また口を開いた。


「助けて……欲しい……?」


 ……本当に困った奴だ。わざとらしくも煽る態度を取る。

 まあ……分からない訳でもないが。

 俺は、差綺を見ながら、ふっと笑みを漏らした。

 差綺は、その術をここにいる誰よりも知っている事だろう。それは一つも(たが)わず、完璧に。


 ……ジジイ。

『この中を知るのには、どうすれば叶う? 私は、これ以上の話はしないぞ。この書物のように、目に見えた言葉もない。さあ……どう探す、貴桐? お前が私に媒体を移したからだぞ。見えなくなってしまったな』

 その『媒体』は、俺の目に見えて知る事が出来ている。

 そして俺は、その媒体がどう動くかを知っている。


「差綺」

 差綺の目がちらりと俺に動くと、瞬きで返事をする。

 宿木に張り巡らせた網は、俺に繋げられた。差綺の行動に警戒する事もなく網を掴んだのも。


 ……それは俺が。


 差綺を信用しているからだ。



「……死ぬぞ」

 来贅は、目の前に立った差綺を脅すように言った。

 診療所にいるペイシェントたちの心臓。自分を殺せば、ペイシェントたちも死ぬと言っている。

 だが、差綺はそんな言葉で怯む事はない。

 そもそも、それは差綺の手の中だ。それに差綺は、来贅の中に取り込まれた事で、来贅の中を全て知っている。


 ……まったく。

『僕にしか出来ないって言ってよ』

 そうだな……差綺。


 差綺は、クスリと笑うと来贅の手をグッと掴んだ。

「言ったでしょう……? 解放してあげるって」

 差綺の手に来贅の血が伝い、落ちゆく雫が糸を引いた。

 一夜の手に乗っていた差綺の蜘蛛が動き出す。糸を掴むように差綺の蜘蛛が、血を伝って上り始めた。

「……貴桐……」

 差綺が掴んだその手を目指して進む蜘蛛を、じっと見つめながら、来贅は俺の名を口にする。

「……言ったはずだ。私から奪えば奪う程、犠牲が増えると……」

 俺は、軽く目を伏せ、ふっと笑みを漏らした。


「何度も同じ事を言わせるな。奪うんじゃない。返して貰うだけだ」

 俺は、そう言うと、咲耶と圭の後ろに立った。

 そして向かい側に立つ、一夜へと視線を真っ直ぐに向ける。

 俺の視線を受け止めた一夜は、深い頷きを見せた。

 一夜の視線が側にいる綺流に向けられる。

「お前……果たされなかったんだな……」

 そう言う一夜は、綺流に目を向けながら言葉を続けた。


「僕と契約しろ。僕にはそれだけの力がある」

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