第4話 差
クスリと笑う差綺に、来贅の目が鋭くなる。
「お前……」
「だから言ってるでしょ? 僕を取り込んだ事、後悔してって」
「……だから……呪術師は嫌いなんだよ……」
「聞き飽きたよ、その言葉。だけどそうだね……僕の場合……」
差綺の指がまた来贅へと向く。
そして、楽しそうな顔を見せると、こう言った。
「どうすれば、あんたのようになるかを知ってるから」
差綺は、言葉を続けた。
「『七日の命も変えられる術がある。身代わりを立てさえすれば、気を入れ替え、生き永らえる事が出来る』」
続けられる差綺の言葉は、俺が見えていた事だ。
「『七日という時は変える事は出来ない。身代わりになった者は、当然七日の命』『それでもその存在を残したいと言うのなら……反魂を行えばいい』」
淡々とした口調。差綺の言葉が流れていく。
「『その術が使えるならば、気を入れ替えて生き永らえ、身代わりにした者を反魂で生き返らせればいい』ってね……」
差綺は、またクスリと笑みを漏らすと、綺流をちらりと見た。
「そう……『身・代・わ・り』……ね……?」
綺流と目を合わせる差綺は、探るような目を見せた。
「考え方が安直なんだよ。反魂は、そう簡単に出来るものじゃない。だから出来なかったでしょう? 何度繰り返しても。そうだなあ……」
言いながら差綺は、また来贅へと視線を戻し、意味ありげに言う。
「バラバラになった体を繋ぎ合わせる事とかも……ね……?」
来贅の目が左右に小さく動いた。
「来贅……あんたはさ……呪術師が嫌いって言うより、僕が嫌いなんだよ。だって僕……言ったでしょう? 僕は小細工が得意なんだ。特に……」
気づきたくなかった事だ。
限界だと認めたくなかった事だ。
それが容易に出来る者は……いない訳じゃない。
出来る者がいるからこそ、可能性を求める。
伝えられる文言は、理解させる為のロジックだ。
そこに力量は書かれていない。
全ての『材料』が揃っても、全ての文言を唱えても。
……差が出る。
「あんたの嫌いな呪術しか使わないって。あんたが出来なかった呪術、だよ」
綺流の目が来贅へと動いた。
……さて……そろそろだな。
「何を……考えていますか」
やはり咲耶は直ぐに気づくな。
「……お前と同じ事だ」
そう答える俺に、咲耶はそっと目を伏せた。
「咲耶」
「……」
無言になった咲耶に、俺は告げた。
「止めるなよ」
咲耶の目線が、直ぐに俺に向いた。
咲耶は、俺から視線を外したが、俺の言葉に返答はなかった。
閉ざした口に力が入ったのは、歯を噛み締めたからだろう。
咲耶の声が聞こえるようだ。
『……どうしても……ですか』
ああ……咲耶。どうしても、だ。
だから俺は、咲耶に言う。
「……心配するな」
咲耶の目線が、俺に向く事はなかった。返事をする事もなかった。
咲耶の事だ。葛藤していても、答えは出ているだろう。
俺の意に背く……と。
だが、咲耶。
お前であっても……止める事は出来ないと、知る事になるだけなんだ。
差綺の手が空間を掴むように動くと、網が浮き、一夜と綺流を包み込んだ。
ゆっくりと瞬きをする差綺は、来贅をじっと見つめてこう言った。
「僕の呪術は、人体に特化する」




