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第33話 執着

「差綺……」

 差綺を振り向く一夜に、差綺は穏やかに笑った。

「あ……」

 一夜は、差綺の目線を受け止めた事で、何か感じたようだった。

 差綺から教わった事を思い浮かべたのだろう。

 差綺が張った網が、真っ赤に染まっていく。

 そして、圭が自身の血で描いた円と重なり、差綺が操る蜘蛛が一夜を伝って一夜の指に乗った。

 蒼い光が網に広がり、円から風が舞い上がると、長く伸びた一夜と綺流の髪をそっと揺らした。

 圭の描いた円は赤く、網は蒼い光を放ち始めた。

 一夜の表情が変わる。

 一夜は、同じ蒼い目と白い長い髪のその姿を確かめるように、じっと見つめながら口を開いた。


「お前が僕の前に現れた時……僕は夢を見ていたんだと思っていた」

「……そうですね」

「お前が僕に見せたあの光景は、来贅に辿り着くものだった」

「……はい」

「僕がお前を呼んだと言ったな……」

「ええ」

「『精霊使いの継承者……やっと巡り会えた』と」

「はい……」

「何故だ……?」

「何故……?」

 一夜の問いに、綺流の目が圭へと向いた。圭が答える事を求めているのだろう。

 圭と綺流の目線が合う事に、一夜が目を向ける。

「圭……?」

 一夜は、少し驚いた顔を見せていた。


「圭」

 俺の声に圭は頷くと、一夜と綺流のいる円の手前まで近づいた。

 だが、そこにいるのは圭だけじゃない。

 圭は、来贅の背後に回ると、首を取るように腕を回した。

「一夜」

 来贅の背後から、圭は一夜を呼んだ。


 精霊使いの継承者。

 呪文のように流れる言葉が、本物だと伝える。


「望む事、全て、思いのままに」


 それは、精霊の意向を証明する為の言葉だ。



 圭の腕から流れ落ちる血が、来贅を染めていく。

 その血が来贅の胸に円を描いた。

 圭は、低い声を響かせて、来贅に言った。


「お前が望んだ事だ。俺が呼び出せばいいんだろ……来贅」


 本物は一つ、その姿も一つ。

 辿り着くまで追い求める執着が、その胸に宿る。


「……お前は……どうするんだ? 貴桐……」

 侯和の声に俺は振り向く。

 手を出す事もなく、一夜たちを見ている俺にそう訊くのも当然だろう。

「どうするってなんだよ? ふん……そんな哀れむような顔をするな」

「……そういう訳じゃない」

 翳りを見せる侯和の表情に、俺は鼻で笑う。

「だったらなんだ? 俺が奪われたものは取り戻せないと分かっている俺が、それでも俺以外の誰かは取り戻せるものがあるなら、抱えた思いも報われるんじゃないかって重ね合わせている俺が滑稽か?」

「馬鹿言うなよ。お前……俺には平気で傷口開くような事を言うくせに……」

「自分がそうなんだろって?」

「ああ……そうだよ」

「ああ……そうだな」

「貴桐…… 一夜が宿木の枝を折れたのも……いや……お前が折らせたんだろう?」

「はは。買い被り過ぎだ」

「貴桐……そんな事はないだろ」

「はは……どうかな……」

 俺は、亜央にちらりと目線を変えた。

 亜央は、侯和が抱きかかえる『彼女』に、目線を向けながら呟いた。


「柯上先生なんだ……」

 ……だろうな。

「その呪法に気づいたのは。主様を見れば直ぐに分かるだろう? 見た目は俺たちとそう変わらない。この塔が出来てから何年経っている? 十五年だ」

 亜央は、侯和から『彼女』を抱きかかえると、『彼女』に目線を落としながら言葉を続けた。


「治らないものは治らない。治せないものは治せない。結果的に器そのものが蝕まれ、修繕する事など不可能だ。一つずつ、一つずつ悪くなっていく……だが、その速度は速くて……追いつけない。昨日は笑って話もしていた、食事も摂れた……なのに急変するんだよ。待ったなんて効かない。だからこそ、時を留めたようにそこに存在しているその奇跡を、追い求めて集まったのが俺たち呪術医だろ……」

「亜央……この存在を作ったのは呪術医だって言いたいのか……?」

 侯和の声は、少し震えていた。そうだと認めたくない思いはあるだろう。

 侯和は、その否定を求めていたんだから。


「ああ、そうだよ……だが俺たちは、大きな勘違いをしている」

『彼女』から目線を外し、顔を上げた亜央は、怒りを交えた強い目を見せて言った。


 ……馬鹿だな。そんな事、分かっている。


「返せる器がないと言っただろう」

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