第31話 依存
「……言ってくれれば……よかったのに……なんて……どうして……」
「一夜……」
一夜の目線が、圭から逸れた。
「……言えたんだろ」
一夜の目が来贅へと向いた。
来贅の手が一夜を誘う。
その指先が一夜を差すと、来贅は言った。
「君を……君が……望む事、全てを」
一夜の目から涙が零れ落ちた。
「……嘘だ」
震える声で答える一夜の足が動き出す。
「一夜っ! 出るなっ……!」
そう叫んだが、一夜の足は止まらない。
来贅の手に導かれるように、差し出されたその手を掴もうとする。
「一夜っ……!」
圭が一夜へと動こうとしたが。
「貴桐さんがダメだって言ってるでしょう……? 一夜」
「差綺……」
差綺の張った網が、一夜の足に絡みつき、動きを止めた。
「そこから動くんじゃねえ。動くっていうなら、俺が止めるぞ、無理矢理にだ! 覚悟しとけ!」
「丹敷……」
差綺と丹敷の行動に、一夜は交錯する思いを払拭出来たようだった。
「なんで脅してんだよ……他に言い方ないのか」
「まあまあ、貴桐さん。丹敷は丹敷なりに頑張ってますから」
「咲耶……お前、丹敷なりって……上限決まってんじゃねえかよ」
「はは……そんな……貴桐さん」
差綺の目線が綺流に向くと、差綺は言う。
「君も……余計な事をしないで……ね?」
「どういう……意味でしょうか」
「あはは」
声は笑っているが、差綺の目は笑っていない。
「留まる場所をなくした宿木は、自ら生きようと動き出す……だけど君の場合、宿主から解放されたくて動いているだけ……君も僕のように自由になれたらよかったのにね? 宿木が宿主に依存するんじゃなくて、宿主が宿木に依存しちゃったんだから、必要なものを得られるどころか、与えなくちゃならない……だから助けたんでしょう? 一夜を。それが君が一夜に干渉出来る方法だったんだから。一夜が殺せと言えば、君は殺す事が出来る。君を離さない宿主をね……?」
差綺の目が赤く光を帯びた。
眼鏡を外した差綺の目は、はっきりと感情を伝えている。
……怒ってんなー……。
まあ、興味あるものの妨げになるようなものには、容赦ねえからな。相手が何であろうと。
ああ……でも逆か。
興味があるからこそ、入り込もうとする。誰が何と言っても聞きやしない。
……絶対、敵に回したくない相手だよな……差綺って。
口では笑ってるけど、目、笑ってねえし。
その点、丹敷って……言うならば素直だよな。そのまんま感情出るしな。
「おい、侯和……」
俺は、侯和を振り向き、声を掛ける。
「なんだ……? どうした貴桐……やっぱりまずい状況なんだよな……来贅も一夜も様子が変だし……差綺もなんか……」
「いや……お前……」
「なんだよ……どうしたんだよ……俺……? 俺に何かあるのか?」
侯和が不安を見せ始める。
俺は、そんな侯和をじっと見ながら言った。
「差綺に眼鏡返せよ」
「は? ふざけてんの? お前。このタイミングで言う事か?」
「いや。結構、真面目に言ってるんだが」
「はは……あ……そう」
差綺の蜘蛛が動き出す。
差綺はクスリを笑うと綺流に言った。
「綺流……その名の綺の文字は、あまり知られていないけど『干渉』の意味を持つ。僕と同じにね……? その名が持つ力を、僕も使う事にするよ。……僕は君に干渉する」




