第29話 証明
「……貴桐さん」
腕を押さえながら、圭が俺の隣に立った。
咄嗟の判断は、間違ってはいない。
「……大丈夫だ。心配するな。お前が描いた円の中に一夜がいる限り、それ以上は踏み込めない。一夜が受け入れでもしなければな」
「……受け入れ……それは……」
そう呟いた圭の目が、心配そうに一夜を見た。
「言っただろう。心配するな。お前なら大丈夫だ。そうだろう?」
「……貴桐さん」
『限界を知った呪術医は、その言葉を二度と使わない』
俺は、圭の目をじっと見つめて言った。
「俺は、その言葉を使う。何度でも、な」
圭は、苦笑を見せたが、納得したように頷いた。
「俺も……使いますよ。何度でも」
「そうか。それなら、そろそろ……教えてくれないか」
「え……?」
「相似した理由だ」
「それは……」
「圭……お前、知っていただろう。知っていたからこそ、何も言わなかったんじゃないのか」
「……」
「一夜に」
『彼が一夜に似ているんじゃない。一夜が彼に似ているんだよ』
「……俺は……」
圭は、目線を一夜に向けたまま、静かな声で答える。
「……取り戻したかっただけです」
「そうだな……お前は」
俺も一夜へと目を向けていた。
仰向けに倒れた一夜の上に、覆い被さるように乗る綺流。
その綺流は、一夜には似ていない。
圭が一夜から抜き取った『気』は、圭が戻って来た時に一夜に戻っている。
今の一夜は、『彼』そのものの姿だ。
「仮の主って呼び名、知っているか?」
「……知っています。仮の主は、主と同等の力を持つ者とされています。そして仮の主は、主の後継者とは違い、血族から選ばれる……」
「ああ。それを知っているって事は、圭……お前の家は、元々は呪術師……だな?」
「……はい」
「納得だ。道理で直ぐに動きが取れたって訳だ。仮の主の役目は『精霊の意向の証明』だ。じゃあ……」
俺は、圭を横目で見ると、ふっと笑みを漏らした。
「圭……お前が『継承者』で間違いないな」
「貴桐さん……俺は……」
「『精霊使いの継承者』だと言っているんだよ」
はっきりと言った俺を、圭は瞬きもせずにじっと見る。
……自分でも分かっていたな。そんな目だ。
だが、それに気づいたのはおそらく、両親が殺された時だろう。
圭の父親がそうだった……と。
圭の父親が一夜に使った呪術は、継承者だったからこそ使えた呪術だ。
その呪術を父親が使ったのを、見ていたはずだ。その頃はまだ子供だった圭には、疑問も持つ事もなく、呪術医であった父親が一夜の命を救ったというだけに留まっただろう。
『気』を動かす呪法。
それは『反魂』によく似た呪法で、死に間際の人間を生かす事が出来る。
使う『材料』は、当然、まだ死んでいないのだから、生きている人間の『中身』……つまり、内臓だ。
圭が何も言わずにいたのも、言える訳がなかっただろう。
この塔が、来贅が行っている事全てが、それなのだから。
一夜は動かされ、与えられた『気』に相似した。そしてそれは同時に、圭が『継承者』であると証明される。
圭は、じっと一夜と綺流を見ながら、考えているようだった。
「……貴桐さん」
「なんだ?」
そして、初めから決まっていたであろう答えを俺に告げた。
「俺は……回収しますよ。全て、です」
そう答えた圭に俺も答える。
「ああ。俺もお前と同じだ」
圭と俺の視線が重なると、俺は言った。
「掬ってやるよ。全て、な」




