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第12話 交渉

「お前が主か。それなら私から奪ってみるといい」


 俺の前に姿を現した男は、そう言って笑った。まるで出来る訳がないと断定するような、嘲笑う目を見せて。

 その姿を見た事で、それは精霊ではないと分かっていた。

 男に絡みついていた差綺の網が、パラリと解け落ちる。

 その手から流れる血を舐める仕草が、たいした傷ではないと言っているようだった。


「……何をしに来た……?」

 俺は、そう言い、ゆっくりと立ち上がりながら、男を睨んだ。

「前の主は死んだようだな。町に呪術師が下りて来る……人々の救いの種はお前たち……か?」

「何が言いたい?」

「まあそう怖い顔をするな。私は交渉をしに来たんだよ」

「交渉……だと?」

 俺は、眉を顰める。

 どう見ても……信用に値しない。交渉などと言ってはいるが、俺に利点などないどころか、取引の条件は有無を言わさずの強制だろう。

 クスリと楽しげにも笑うと、男は言った。


「塔に入る気はないか?」


 ……こいつ……。

「塔にだと……?」

「ああ、そうだ。お前たちも知っているだろうが、あの塔は呪術医が集まっている塔だ。当然、呪術医というのだから、医術も呪術も使う。だが、呪術医の使う呪術というものは、不足が多くてな。呪術師ならばその不足を補う事は可能だろう? その力……塔で使ってみる気はないか?」

「……断る」

「即座に答えを出すのは、あまり感心しないな……いくらお前が主だろうと、お前一人の決断でいいなどと思うなよ……?」

「ふん……じゃあ、俺たち呪術師を塔に招くなど、お前一人の決断でいいのか? 塔の主……そうだな?」

「ふふふ……今度の主は中々に面白い。勘の鋭さも中々だ。その目つきも……な」

「それはどうも」

 男の目線が差綺に向いた。

 差綺は、固まったかのように反応を見せない。

 網から手を離さなかったのも、離さなかったんじゃなく、離せなかった。

 こいつ……差綺の網から逃れる事など、考えていなかった。逆にその網を利用しようとしやがったんだ……。

 俺は、差綺を隠すように前に立った。

 ……やはり……あの時の男が、この男に何か伝えたか。


「貴桐さん……!」

 異変に咲耶が気づいたようだ。俺たちの元へと走って来る。他の呪術師もだ。

 男は、ふっと静かに笑うと、俺へと目線を戻し、周囲に人が増えていくにも構わず話を続ける。

「呪術師は、呪術を使う事が出来て、呪術師と名乗れるんだったな……」

「だから……なんだ?」

「その名を保つ事が出来ればいいが……な……?」

「お前……」

 男が余裕な笑みを見せ続けるのは、その手に掴んだ力がそうさせているのだろう。

 あの書物が媒体になった事に、前の主を思い浮かべ、苦笑しながら今までそう口にした事はなかったが、その呼び名を口にした。


「……ジジイ。初めからそう言っておけよ」


 あの書物には呪術医の事も書いてあった。

 呪術医……。呪術と医術を併せ持つ者。

 だがそう呼ばれるようになったのは、それ程、昔の事じゃない。

 元々、医術と呪術は分かれていた。だがそれはそうであって欲しいと願った結果……。

 医術師が使った呪術がそうであっただけの事だ。

 その呪術は人体に特化し、その生命さえも……。


「お前……何百年生きている……? 来贅(くぜい)


 俺が守らなければならないものは、仲間だけじゃない。呪術というもののあり方もだ。


「ふふ……行嘉貴桐…… 一つ、言っておこう」

 俺の心を見透かすような言葉を残して、奴は姿を消した。


「本当に守りたいものは……優先するべきだ」

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