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第25話 異物

「……ちょっと待って……圭……」

 一夜の声に俺は、やはりと思った。

 媒体の中からもう一つ、抜け出して来るものがある。

 俺と咲耶の目が動く。

 一夜と圭を拒絶するように、その『媒体』は苦しみを露にした。

 逃げるようにも抜け落ちようとする。


 差綺の興味深そうな声が流れる。

「へえ……? これが彼の……ね……?」

 やっぱり差綺には見えていたか。

 そもそも差綺が重点を置いて見ていたのは、こっちだろう。

 本当に興味を示したものしか相手にしないな、差綺は。


 亜央の様子に目を動かしたが、唱え続ける呪文も途切れ途切れで、反応が鈍っている。

 一夜と圭が刻みつけたのは半分くらいだろうが、それが効いているからだろう。

 来贅にしても、まだ目を覚ましそうにはなさそうだが……。側にいる精霊も胸に赤い光を見せてはいるが、それ以上の反応はない。

 少し……様子は見られそうだな。


 俺は、再度、媒体へと目を向ける。

 これが亜央が言っていた言葉の真実か……。


『昔も今も、動くものを綺麗なままに、新たな器の『材料』に組み込んで、その『部品』が正しく動くように修繕しているブリコルールだ』


「新たな器の……材料……部品……?」

 一夜にも亜央の言葉が浮かんだようだ。

 まあ……確かにこれは、亜央にしてみれば組み込んだと言って間違いはないのだろうが。

 しかし……酷いもんだ。

 気分が悪い。

 媒体の中から抜け出して来たのは、女の姿を見せていた。

 それでもまだ抜け出して来ているのは、体の半分くらいだが……。

『最後には骨しか残らない』

 だから……全てを残したと言いたいのかよ……。


「貴桐さん……時間が迫っています。差綺の言う三分が超えれば、今、行っている事は無駄になります」

「だから……侯和なんだよ」

 侯和の目は、媒体の中から出て来た『彼女』へと向いている。

 あの時、侯和は、圭にこう訊き直した。


『何処にいる?』


「あと一分だよ」

 差綺が急かすが、一夜と圭にまだ判断がつかないようだ。

「圭……」

「明らかに『異物』だろ……取り除くか……」

「異物って……だけど……ここまできて、取り除くっていったら、切り取るしか……そしたら傷がつく。植え付けているものも、意味がなくなる。それに……僕たちは救おうとしているのに……どうして……拒むんだ……?」


「……助けて……助けて……お願い……約束したでしょう……?」

『彼女』がうっすらと目を開けると、言葉を吐き出した。

「痛いの……頭が……頭が痛いの……全身にまで響くくらい痛むの……」

『彼女』は、苦しみを伝え続ける。

「痛みが(おさま)る薬が……効かないの。何度も飲んだわ……この薬も、あの薬も、何度も何度も……それでも消えてくれない。痛みに耐えられないの……考える事も、気を紛らわせようと何かに目を向ける気力も、全て失わせるの。ただ痛いという苦痛に縛られて、逃げられない……体中にまで痛みが走る……起きている事も出来ない……眠る事も出来ない……解放されたいの……この痛みから解放されたい……」

 これが……亜央の思考を変えた原因か……。

「……嘘つき。嘘つき……治るって言ったじゃない……嘘つき……だったらいっその事……」


 何処を見ているのか分からない虚ろな目だったが、その声は憎しみを吐き出した。


「殺してくれればよかったのに」

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