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第24話 変換

 差綺が張った網が、繊細に壁を崩していく。

 圭が心配していた衝撃もこれなら大丈夫だ。

 段々と壁の中が見えてくる。

「見えてきたよ」

 差綺は、そう言ってクスリと笑った。


「これが……媒体……」

 驚いた声を一夜があげた。

 確かに……これは驚くな……。

 まるで人間の脳……だがその大きさは何十倍だ……。

 だが……納得だ。

『先生』と呼ばれる人間は、他人の知識体系をインプットした機械……。


『一体……誰の知識だ?』


 上層に上がったくらいだ。圭は、この存在を分かっていただろう。

 侯和に言っていたしな……。

『あの壁は……とても厚い』

『閉ざしているんだ。誰も近づけないように』


 圭の考えは決まっているようだ。

 圭は、媒体を確認すると言った。

「その媒体に…… 一夜の知識体系を植え付ける」

 圭たちのやりとりに、俺と咲耶は目を合わせて小さく頷いた。

 同じ性質を持った『気』を宿した『宿』なら、可能な事だろう。

 圭にはその方法が構築出来ているはずだ。

 もし……難しかったとしても……。

 俺は、差綺にちらりと視線を向けた。

 差綺は、俺の目線に気づいている。口元が笑みを見せた。

 ……頼りにしているぞ、差綺。


「圭。君のロジック……通してあげる。但し……リミットは三分間、ね? 分かってるでしょう?」

 圭は、深く頷くと差綺に答える。

「その鼓動が止まるまでは、生は保障され、その鼓動が止まった時に、死は決定付けられる。だけど……心臓が停止した後でも脳は三分間活動を続けられる……その三分間で植え付ける」

 一夜には、まだ少しの不安が残っているようだった。

 確かに自分の知識を植え付けたところで、どう変わるか見えないだろう。


 だがそれは、『気』の使い方を変えるという事だ。


 一夜の様子に気づいている差綺が、一夜に伝える。

「人である限り死ぬ……いつしか迎えなくてはならないものに人の手が加わって、迎える時を早める事にもなる。逆に人の手が加わって、延びる事もある。どっちにしたって、主導権が変わっただけさ」

 そう……主導権だ。

 それを変えれば、この塔の思考も変わるだろう。


「主導権って……差綺……」

「主導権だよ、一夜。呪術を使うなら、そう使うべきだよ」

 差綺の言葉を聞いた一夜の目が俺を見た。

 ……気づいたようだな。

 俺が一夜に言った事を思い出したのだろう。


『俺は、目的が同じものなら、使う呪法は一種類だ。俺が使うとするならどっちだ? 分かるだろ?』


 だから迷うな。恐れるな。自分に自信を持っていい。


「圭」

 一夜が圭を呼ぶ声に圭が頷くと、媒体の前に円を描き始めた。

「始まるよ。三分以内に終わらせて、ね?」

 差綺の言葉に二人は頷く。

 円から放たれる蒼い光が、媒体を覆った。

 同時に来贅のいる部屋の方で、鈍い音が響き、バチバチと光が弾けた。


 ……止まったか。


「今だっ……! 一夜! 圭! やれ!」

 俺の声に一夜と圭は、円を導くように媒体へと移す。

 後は円が浸透すれば……。


「おいっ! 差綺! まだかよ? こっちに押し寄せて来る人数が増えて来てるぞ! 少しは手伝えよ!」

 通路にいる奴らを抑えに行っていた丹敷が戻って来た。

「うーん。手伝ってもいいんだけどねー。そしたら丹敷、さっきの言葉が嘘になっちゃうよ?」

「……」

「ね? 丹敷? 大口叩く割に……」

「うるせえ。お前も貴桐と同じ事を言うなっ、差綺。分かったよっ!」

 丹敷が再度、通路の方に向かう。


 ……増えて来ている……か。

「……貴桐さん。増えて来ているというのは……」

「ああ……」

 俺は、媒体の方をじっと見つめた。

 咲耶と俺の言葉が重なった。


「「おそらく、媒体が……二つある」」

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