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第23話 期待

「圭……君のロジック通してあげる」


 差綺の言葉に圭は小さく息を飲んだ。

「俺の……ロジックって……差綺……」

「そう……君の……ロジック。君はそれを実現出来る。だって、そうして来たでしょう?」

 差綺の探るような目に、圭は苦笑を漏らした。

「……流石……同じ鎖に繋がれていただけの事はあるね……」

「やだなあー、鎖だなんて。そこは共有って言って欲しいな?」


 共有ね……はは。差綺だから言える事だな。

 来贅に繋がれていたのは、差綺も圭も同じだ。

 だが差綺は、干渉する事が出来る。

 主導権を持つ事も可能という事だ。

 だから診療所にいるペイシェントたちの心臓を、来贅から守る事が出来ている。

 圭にしたって、自分が構築した回避策は、これをやればこうなると、実際に通す事が出来ている。


「はは……共有って……分かったよ、差綺」

 今まで、一夜に何も言う事なく、一人で抱えてきた圭。

 それが残された者にとって、どれ程、辛い事か気づいてやれよ。

 頷いた圭は、一夜へと目線を向けた。

「力を貸して。一夜」

「圭……」

 ……ようやく、一夜を頼ったか。

 一夜が深く頷きを見せた。

 俺は、そんな二人の様子にホッとしていた。

 この二人なら大丈夫だ。

 後は侯和だが……。

 俺は、侯和の言葉を待った。

 正直、早くしろとずっと思ってはいるが。


「……貴桐。僅かな可能性しか……俺は保障出来ない」

 一夜と圭の様子に感化されたのか、侯和がようやくそう口にした。

 だが……まだ弱腰だ。

 自分に出来る事は見つけたようだが、叶わなかった時の諦めを納得しようとしている。

「それでもいいと言われたら……楽になるのか。違うだろう」

「……貴桐」

 ……やっぱり図星か。

 誰かに背中を押して貰いたいのは分かるが、慰めまでも含めて言うのは間違っている。

 保障出来ないからなんだ。

 それを主張するのは、失敗した時の後悔を緩和する為の予防線だろう?

 俺は、侯和にはっきりとした口調で言った。


「僅かな可能性だと言われても、それでもいいとその可能性を頼ってんだよ。僅かでも可能性はあると言ったなら、相手を期待させたんだ。本当に無理だと思うなら、可能性はないと言え。そう言えば助けてくれるなどとは期待しない、初めからな」

 横目に侯和を見た。

 侯和は、下に落としていた目線を上げると答えた。


「……いや。だからといって出来ないとは言っていない。俺は、その可能性に賭けている」


 侯和の表情は変わっていた。

 自信のなさそうな顔から、覚悟を決めた強い表情だ。

 俺は、そんな侯和を見てニヤリと笑みを見せて言う。

「それは……期待していいんだな?」

「馬鹿言うな。わざと期待値を下げているんだ」

 侯和は、そう答えて笑みを見せる。

 少しは余裕が出たようだ。

「ふうん……?」

 俺は、揶揄うようにも侯和を見る。

「その方が期待以上になるだろう?」

 この受け答え……。まったく……面倒な奴だ。

 答えは分かっているはずなのに、遠回りするんだよな……侯和は。


 本当は、侯和なら出来ると俺には確信がある。

 だがそれを言ったら、侯和の事だ。そんな事はないと否定するだろう。

 まあ……逆に調子に乗られても困るけどな。


「最初から上げとけ、馬鹿を言っているのはお前だ、侯和。無駄に心配させんじゃねえ」

 俺は、そう言ってクスリと笑った。

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