第22話 理解
「だったら犠牲になればいいだろう。あいつはその覚悟でその呪術を使っているんだからな」
圭の言葉に躊躇して、動きを止めた侯和たちに、俺は冷たくも言葉を放った。
「貴桐……! お前は止める気はないのかよっ!」
侯和の苛立ちが俺に向くが、焦りがそうさせるのだろう。
「ない訳ねえだろ」
俺は、部屋に落ちている書物を指差して言った。
「媒体って言うけどな、アレも媒体なんだよ。隠そうが隠すまいが、見つける者は見つけ、使う者は使う。どんなに難解でも、そこに答えがあると知っているなら迷っている暇などねえんだよ。こっちは準備出来てんだ。後はお前らの覚悟だろ。人の命に触れる時、迷ってる暇あんのか? 随分と余裕だな? それとも時間の無駄使いか?」
煽るような俺の言葉に、侯和は表情を暗く落とすだけだった。
「……簡単に言うなよ」
迷いが自信を失わせる。
絶対に助けるという思いが崩れ始めるのは、自分の中に可能性を見出せないからだ。
だが……迷いがあるのは、可能性はゼロではないという事……。
可能性がゼロなら、迷う事もなく答えは決まるだろう。
選択を迫っているようだが、そうじゃない。
それしか答えはないんだよ。抱えた思いに対する答えは、一つしかないだろ。
どんなに困難だと思ったって……な。
「簡単な事だろーが。簡単じゃねえって言うなら、ただ単にお前の理解速度が遅いだけだ」
「貴桐……!俺は……!」
「言い訳なんか後でも言えるだろ」
俺は、侯和の言葉を遮った。
「言い訳じゃない」
そう答えた侯和の目は強かった。
まあ……俺の言葉に腹を立てているのもあるのだろうが。
それでも。
食い下がる気があるなら、答えは出るだろーが。馬鹿、侯和。
「ああ、後から言うのが言い訳か。じゃあ、後悔しねえって言えんだな? 時間がねえって言ってんだよ、俺は。時間切れの後にお前、泣き言なんか言うんじゃねえぞ。断言してやる。一人は確実に死ぬからな? お前の目の前で、だ。答えは出てんだ。理解速度早めろ、侯和」
……早くしろ。
亜央は、絶望を抱えていても、答えに迷いはない。
僅かな可能性であっても、その可能性に縋っている。
それが自分が犠牲になると分かっていても、何の躊躇いもないんだぞ。
「……後悔……するに……決まってんだろ……」
歯切れの悪い侯和の言葉に、俺は先を急ぐ。
あー……もう面倒だ。待ってらんねえ。
「差綺、やれ」
差綺には、壁の中にある媒体がどんなものであるのか見えているだろう。
差綺の網は繊細だ。圭が口にした不安も、差綺なら問題なく近づく事が出来る。
後は……媒体が確認出来た後に、侯和たちがどうするかだ。
差綺が壁を剥がそうと網を動かす。
パラパラと壁が剥がれ落ちていく。
「差綺……!」
差綺を止めようと声を上げた圭に、差綺が圭をちらりと見た。
圭に向ける目線は、期待を示している。
「今度は圭……君が受け止めてよ。専門外だなんて言わないでね? 呪術医なら、そのくらい知っているでしょう?」
「差綺……」
圭の不安を払拭するようにも、差綺の目が強く開く。
赤い瞳が光を帯び、クスリと笑う差綺は、圭に力を貸すと言っていた。
「君のロジック……通してあげる」