表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/168

第20話 簡単

「亜央……」

 ……侯和もやるせないな……。

 一度、擦れ違ってしまったら、互いの気持ちなど分かろうが分かるまいが、噛み合う事が出来なくなる。

 その距離は、離れていくばかりだ。


 それでも……。

 言い訳のつもりか、弱音は吐くんだよな……。

 亜央と侯和の会話が続く。

「構築した治療方法に間違いはない、だがそれでも改善が見られない。状態は悪くなっていくばかりで、使える薬剤も術式もなくなっていく。なくなっていけば、効きもしない同じ薬剤を、もう少し続ければ効くからと繋ぎに使って、その間に次のものを探し出す。時間稼ぎだ。その繰り返しなんだよ。他に見つからず、使える薬剤が一周すれば、また元に戻るしかない。もう一度、これを試してみましょうかってな。俺は……それがもう効かないって分かってるんだよ……」

「だからって……お前……」

「同じ薬剤がダメだって分かってんだよ……何度試したって、ダメなものはダメなんだよ。だから……プラセボなんだろ」

「……そんなもの…… 一時的な誤魔化しだ。暗示だろ」

「ああ、そうだよ、勿論だ……そんなので緩和されやしない事も分かってるさ。だからプラセボじゃないというロジックを使うんじゃないか」

「……馬鹿ヤローだ」

「そうだな……だが……目の前に『奇跡』があるなら、迷わず掴むだろう?」


 奇跡……か。亜央にしてみれば、それが来贅って事か。


 亜央は、来贅の元へと足を進めた。

 侯和の手は、悔しさを掴むばかりで、その手はもう亜央へと伸びなかった。


「……侯和」

 俺は、そんな侯和を見ていられず、侯和に近づいた。

「貴桐……」

 悲しげな瞳は、答えを迷っている。

 自分が何を言ったところで、亜央を止める事は出来ないと諦めもあるのだろう。

 話を聞いた分では、その諦めも以前に持った結果があったからだ。

 ……後悔……か。

 自分の言い分なんて、通るはずもない……初めに手を離したのは自分だと思い詰めている。

 本当に……仕方ねえな。


「呪術医ってのは、自分で自分を縛っちまうんだな」

「……そうだな」

 聞き流すような返事の仕方だな。

「ふん……認めるのが随分と早いじゃねえか」

 俺は、わざとにも皮肉めいた口調で言った。

「『大丈夫、必ず治る』……その言葉が自分の持っている力量を超えろと、圧力を掛けるんだ」

 力のない侯和の声は、やはり諦めを掴んでいる。

「それは自分が自分にだろ」

 侯和のやるせない思いは分かっていたが、敢えて厳しい言い方をした。

「……ああ」

 気のない返事を返す侯和に、俺は言葉を続ける。

「人に言えば期待に変わる……それは自分に課した責務だろ。その言葉を口にしたならな。それだけの事だ」

「……責務……か。でも……それだけ……か。簡単に言うなよ……」

 侯和は、少し俯いて苦笑した。

 まったく……なんだかんだで意外に消極的なんだよな。

 言う時は言うくせに。

「不満か?」

「不満だろ……」

 ……なんだ。まだそう思えるんじゃねえか。

「じゃあ、やれよ。不満なら」

「貴桐……」

 侯和の目線が俺に向く。

「お前……呪術医だよな?」

「なんだよ……今更……」

 苦笑した侯和の目線が、また下に向く。

「だったら……」


 迷う思いに少しは効いたか。

 侯和が俺に向けた目線は、気づきを得ていた。


「あいつの痛みくらい、取ってやる事、出来んだろ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ