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第16話 発動

「お前もか……圭」


 冷静にも穏やかな表情で、圭は小さく頷いた。

 一夜の目が圭に向く。

 ……報われないな。

「なんでいつも……何も言ってくれないんだよっ……!」

 一夜の悲痛な声が響いたが、それでも圭の表情は変わる事なかった。

 圭は、一夜に何も答えず、自分の行く末を受け入れているようだった。

 そんな中で、差綺が動きを見せる。

 圭へと視線を向けた差綺が口を開いた。


「だから言ったのに」


 圭は、差綺を振り向く事はなかったが、小さく息をつくと差綺に答えた。


「『想定内』だよ」

「やっぱりわざとだったんだね、圭」

「よく言うだろ、差綺。自分の体は、自分が一番よく分かってるって」

「欠落している部分は、眠っていた君の部分……それが目覚めたら、一気に不足を補った。君の役目は……」

 差綺の目が赤く光る。

「終わったんだよ」

 圭の様子が大きく変わった。

 咳き込んだ圭の口から血が流れる。ふらりとよろめく圭を差綺が捕まえるように支えた。

 差綺の蜘蛛が動き出し、圭に網を張り始める。同時に亜央が落ちるように膝をついた。


 俺は、深い溜息を漏らした。

「……差綺」

 俺は、差綺へと近づき、手を伸ばした。

「それ以上、近づかないで、貴桐さん」

 その差綺の言葉に、俺は目を伏せて苦笑した。


 ……あの時と、同じ目をしているな、差綺。


『僕の為になんて、泣かないでね』


 差綺へと伸ばした手をそっと下ろす。

 俺も差綺も、その後は視線を合わせる事はなかった。


『ダメだよ……読まないで、僕の思考』


「……どうしますか」

 咲耶が俺に小声で訊いた。

「……やらせておけ。どうせ言っても聞かないからな」

「これも……タブーですよ。許諾する事のなかったものを、許諾したからですよね……? 敢えて掴ませるような選択をさせたのは、差綺ですよね……? これでは差綺も同じ事になります」

「分かっている」


『それを知ったら僕は……その時こそ後悔する』


「……差綺……なんで……どういう事……?」

 一夜が納得出来ないと訴えるが、差綺はクスリと笑った。


「『想定外』だったでしょ?」

 そう言った差綺は笑みを止め、熱を帯びるような赤い瞳とは逆に、冷ややかな目をしていた。

「差綺っ……!」

 一夜が差綺を掴もうと手を伸ばした。

「動かないで、一夜」

 あまりにも冷たい目を見せた差綺に、一夜の手が止まる。

「みんな……ここから出て」

 差綺は、俺と咲耶を擦り抜けて、圭を来贅のいる部屋へと連れていく。

「……馬鹿が」

 俺は、小さく呟いて、部屋を出始める。

「……貴桐さん……貴桐さん……!」

 一夜が俺に助けを求めるが、俺は一夜の肩をポンと叩いて言った。


「行くぞ」

「……そんな……」

「咲耶、侯和。早くそこから離れろ」

「おい……貴桐……」

 侯和も納得がいかず、俺を頼る。

 それでも何をどうしたらいいのかを選択出来ずに、足の止まっている侯和たちを俺は急かした。


「早くしろっ!」

「貴桐……! これ以上、何も出来ないって言うのかよっ……! このまま見過ごせと言うのかっ! じゃあ、何の為に来たんだよっ……!」


 ……何の為に。


 俺は、侯和を睨むように見た。

「……貴桐……」

 俺の目線に侯和は言葉を止めた。

 俺は、侯和から目線を外すと、聞こえるか聞こえないかの声で言った。


「……全てを掬う為だ」

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