第15話 感染
亜央の思想は、来贅の思想と一致する。
それは抱えたものが同じだったからこその『共感』だ。
同じ経験をし、同じ思いを抱えた者なら、自ら繋がろうとする。それは互いに。
そして求めるものが同じなら、尚更、深く繋がる事だろう。
「何に取り憑かれてんだよ……お前」
俺は、半ば呆れながら、亜央に言った。
亜央は、髪をクシャクシャと掻いて答える。
「取り憑かれてる訳じゃない。追及の結果だ。より上等な方法を得る為に必要なのは、現状回避の手段の構築……それが追及だろ」
「こんな様を見てからでは、同意出来ねえな」
「じゃあ訊くが、お前たち呪術師は、呪術の失敗をそのままにするのか?」
「対比にならねえ」
「はは。失敗するような呪術は使わない、そんな答えか?」
皮肉めいた口調で亜央は言った。
俺は、呆れた溜息をつくと、亜央に言う。
「仕方のねえ奴だな、お前。失敗する呪術っていうのはな、その中に含まれている統御と懇願が、テメエの一方的な憎悪しかなかった場合だ。言っただろ、返ってくると」
厳しくも言った俺に、亜央は言葉を返せず無言になる。……図星か。
一応、自分がやった事がどういう事かは分かっているんだな。
「返せる器がなくても、お前……手を加えただろ」
「だからなんだ?」
亜央は、開き直ったような口調で言葉を返す。
俺は、そんな亜央を睨みつけた。
亜央は、俺から目を逸らす。
「何が現状回避の手段の構築だ。それが追求だと言うなら、こんな結果は招かない」
そう言った俺に目線を戻す亜央の目は、悲しげに見えた。
それでもその目の奥に、こいつにとっての覚悟が見える。
互いに目線を合わせたまま、少しの間が開いた。
気づかないなら教えてやる。
俺は、亜央をじっと見つめたまま、告げた。
「お前……『感染』しているんだよ」
その言葉に多少なりとも恐怖を感じた事だろう。
だが、それはまだ発動していない。
何も感じられない事に、半信半疑でもあるだろうが、それは病と同じようなものだ。
体の不調は感じない。だから大丈夫だと勝手な安心を得ようとする。
そんなはずはないと、自分に暗示を掛けるんだ。
だが、それは自身の力でどうなるものでもない。
気づかないうちに蝕まれ、気づいた時には……。
手遅れだ。
「お前……手を加えただろ。感染しているんだよ」
俺は、目を背けようとする亜央に再度言った。
言えば言う程に、それが事実だと受け止めざるを得ないだろう。
「感染……だと?」
「ああ。気づかないうちに……な」
亜央の目が左右に小さく動いた。
……異変が出たか。
蝋燭の火がゆらりと揺らめいたのが横目に映った。
同時に一夜の声が聞こえた。
「なに……」
一夜に視線を向けると、一夜が手にしたままの来贅の心臓が、蝋燭の火に共鳴するように動きを見せる。
状況が動き出した事に、亜央の表情が硬くなった。
「冗談じゃない……感染だと……? 一体、何が何処で俺に影響してくると言うんだ?」
焦りを見せる亜央だったが、やけに冷静な奴がいる。
そうなっても……そうなるのが当然だと、知っていた。
俺の視線を真っ直ぐに受け止めるその目は、納得を示す笑みを見せていた。
俺は真顔で、笑みを見せる奴に告げる。
「お前もか……圭」
圭は、俺の目を見つめたまま、静かに頷いた。