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第14話 本位

「……貴桐さん」

 咲耶の声がこの状況の異様さを伝える。

「ああ」

 円の中央に仰向けで眠っているようにも見える来贅。

 その周りには……。


 それでもそこから……離れる事が出来なかった……か。


『朽ちた屍に用はない』


 ……骨。


 七日の命も生き永らえる(すべ)がある。身代わりを立て、『気』を入れ替えればいい……当然、身代わりになった者は、七日の命……。

 身代わりになった者を救うには……死者を生き返らせる『反魂』を使えばいい。


 ……来贅。


 その術が叶うまで……その約束は果たされない。

 叶うまで……死ぬ訳にはいかない。

 そう……約束したから……か。


 真っ赤な火を揺らめかせる蝋燭。

 散らばった骨に手を伸ばすかのように、溶ける蝋が床を這う。

 まるで……骨を繋げようとしているみたいだ。

 白い煙がその上に浮かび上がる。

 浮かび上がった煙が姿を作った。


 ……相似しない理由……か。


 俺は、それを見ながら、小さく二度頷く。

「……否定していましたよね……骨を繋ぎ合わせても、そこに生は成り立たないと……それなのに……」

 散らばった骨を見ながら、咲耶がそう言葉を漏らした。

「それしか残らなかったからだろ……」


 あの家の主人が言っていたように。


「何かが変わっていて、何かが足りなくても……最後には骨しか残らないんだ」


『塔から出たのは、本当に残念だ。あのまま塔にいれば、お前が見たかったものが見れたかもしれないのにな? 私はお前に期待していると言っただろう』


 俺が見たかったもの……期待、ね……。


 俺は、目をそっと伏せると、苦笑した。

「……使い過ぎだ」

「そうですね……」

「咲耶……」

「分かっています」

「……ああ。頼んだぞ」

「はい」

 俺は、ちらりと差綺を見た。

 差綺は、俺の視線に気づいているが、敢えてこっちを見ない。

 指先に糸を絡めて弄んでいる。興味のないふりをしているのは分かっていた。


「……亜央……亜央っ……!」

 侯和が亜央に詰め寄る声が背後に響いていた。


 俺は、一通りこの部屋の中を見終わると、溜息をついた。

厭呪(えんじゅ)が掛かっている。お前……返ってくるぞ」

 そう言って俺は、亜央を振り向いた。

「……言っただろう。返せる器がないと。返ってこないさ……」

「取り込み過ぎた結果だ。入り込めなくて溢れてる。だからこいつらの気だけが分離して、実体から離れて動き出す。その器だけが存在を示すための依代になっただけだ」

「禁断の呪法なんだろう……?」

「俺に訊くのかよ?」

「他に誰がいるんだよ?」

「俺は、お前の嫌いな呪術師だろう」

「呪術医は、黙って己の出来る限界を超える事に、目を閉じるべきだったんだ」

「だから新たな精霊を必要としたのか?」

「人の中にある気……それを使い果たせば、全てが抜け殻だ。その中から抜け出した精霊も、力を持つ事もない。ただ、宿主の生命に縛られ、その生命が尽きれば、消滅する。新たな器に移動する事が出来れば……」

「何故、お前がそこまでして、来贅に手を貸す? そんなにこの塔が、お前にとって都合がいいのか?」

 亜央は、力なくも溜息を漏らすと、呟くような声でこう答えた。


「治せないものは治せない、それなら全ての臓器を取り替えて、新たに作り直す事が出来たなら、苦痛に耐える治療も、いつ死ぬとも知れない恐怖も全て取り払えると。勿論……『器』はそのままで……それが出来るのは、主様だけなんだよ」

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