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第13話 永遠

「……だから……呪術師は嫌いなんだよ。呪術師には敵わないというその自信が、医師の全てを否定するんだ」

「お前も来贅と同じ事を言うんだな? 呪術は使うくせに、呪術師は嫌い、か。そのお前の嫌いな呪術師に、今、お前は助けを求めていなかったか?」

「この……」

 亜央は、悔しさに歯を噛み締めたが、差綺が何をしたのかを察したようだ。

 亜央が差綺をゆっくりと振り向いた。

「あ……おい……毒って……」

「あー。やっと気づいたんだ?」

「毒を以って毒を制すという事か……」

 そう言いながら亜央は、苦笑した。

 差綺の首元に蜘蛛が戻る。


 ゆっくりと消えていく蒼白い霧。

 一夜の隣に立っているのは圭だ。

 ……繋がったか。

 圭の表情を見て、感じ取れた。

 ガラスケースの中の圭はいない。

「お前の実験は失敗だ、亜央。アレは何処に返そうか?」

 亜央の胸元を掴む圭は、一夜が手にするものに目を向けた。


「来贅の心臓」


 一夜の手の上で、一定の鼓動を刻んでいる。

 それを見る亜央は、肩を落として呟いた。


「無駄だよ……返せる器がない」


「……咲耶」

 亜央の言葉を聞いた俺は、咲耶に小声で伝える。

 咲耶も小さく返事を返した。

 嫌な予感を感じた事が、この後に起こる事の回避手段を考えさせた。


「おい……亜央……お前……まさか……」

 ……侯和にも分かったか。

 まあ……『彼』に自分の持っているものを譲ったんだもんな……。

 その方法は知っている訳だ。

 侯和は、部屋の中を見て回る。

 そして、一つの扉を見つけると、勢いよく開けた。

 侯和の慌ただしい様子を、亜央は冷静に見ていた。

 ……諦めたか。

 まあ……奴にはもうこれ以上の術はないという事だな。

 扉を開けた侯和の動きが止まった。

 俺と咲耶は、侯和の元へと向かう。

 俺は、硬直したままの侯和の肩を掴んで後ろに引いた。


 ……酷いあり様だ。

「……貴桐さん……」

「ああ。だから言っただろ……タブーだと」

 ……奴にとっても限界が来たって事だ。

 焦った結果がここに出ている。


 床に描かれた喚起法円は、血で描かれていた。

 無数の蝋燭の火が、赤く揺らめいている。その中に眠るように来贅がいた。

 バイロケーション……それは確かに自分の意思でその姿を存在させるものだ。


 本物は一つ……その姿も。


 だが、その本物はもう……空っぽだ。

 唯一残った心臓が、存在を示す意識に作用する……。

 俺と咲耶は、部屋の中に入ると、状況を確認する。

 ……これは。

 部屋の床に落ちている書物に目を動かした。


『心臓に心があると思うか?』


 ジジイの持っていた書物には、殆ど目を通していた。

 ……同じもの……か。


 呪術的思考は、時と共に変化していく。

 反魂に対する考え方もそうだ。


『全く同じ人間が作れると思うか?』


 本人ならば、何かが変わってしまっていたとしても、自分に疑いなど持つはずもない。

 それが自分だと信じて疑わないからだ。

 もし俺が、俺じゃないというならば、その体の中に意識を二つ持っていなければ気づかない事だ。

 姿は勿論、その声も、口にする言葉も、全て、何もかも。

 それが同じだと認めるのは、その姿を失った者だろう。


 ……全て。


 ああ……。

「……そうだったのか」

「貴桐さん……?」

 呟く俺を咲耶が振り向く。

 ジジイ……。

 俺がその思いを遂げたなら、その永遠は……。


『望む事、全て、思いのままに』


 そうなるんだよな……?

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