第11話 接続
咲耶の言葉に侯和は、小さく息を飲んだ。
まさか咲耶がそんなふうに言うとは思わなかっただろう。
「咲耶まで……」
「俺たちを誰だと思ってる? 侯和。目の前の奴より付き合いは短いかもしれないが、信じる度合いは違うんじゃないのか」
「貴桐……」
不安そうな顔を見せたままの侯和に、俺はニヤリと笑みを見せて言った。
「頭はもう使ってる。後は……行使するまで」
俺は、パチンと指を弾いた。
「あー。やっと呼んでくれた? 退屈で寝ちゃうところだったよ、貴桐さん」
欠伸をしながら差綺が俺の隣に立った。
「丹敷は?」
「うーん。足手纏いになるから、通路に置いてきた」
差綺は、そう言って、あははと笑った。
「……あいつ、なんかの役に立ったりしねえの?」
「まあまあ、その時が来たら、役に立つから。それよりも……」
差綺は、クスリと笑みを漏らすと、圭に視線を向けた。
「ああ、そうだな」
「うーん。やっぱり不器用だね、嘘が下手だよ、圭。圭と呼んでいいのか、もう分からないけど?」
「差綺、なに言ってるんだよ……俺は一夜を止めただけ……」
「僕、面倒な事嫌いだから、もう話さなくていいよ。それでも僕に何か言いたいなら……」
差綺の目が鋭く光る。
俺と咲耶は、目線を合わせて、互いに小さく頷いた。
圭の体に網が浮き上がる。
「その網に聞いて貰って?」
差綺の指がそっと動くと、圭の体に張り巡らせた網が、真っ赤に染まる。
「な……差綺、ちょっと待てよ。お前は俺をよく分かっているはずだろ?」
「勿論、よく知ってるよ。ねえ……諦めてよ。君だって僕の事、よく分かっているはずでしょう? 僕……誰の中にいたんだっけ?」
「差綺……お前……最初から……」
「うん。僕は、初めから『想定内』だったから、ね? 何の為に一夜に網を張らせたと思ってんの? 君と繋がる為だったかなあ? どうなのかなー? 僕……忠告したよね? 使わなきゃよかったのに……結構、回ったんじゃない?」
ゆっくりと瞬きをする差綺の目が、赤く光った。
「僕の……毒」
その言葉に圭の表情が強張った。
「……毒……? なんでだよ……差綺……」
「だから言ってるじゃないか。その網に聞いて貰ってって」
「網……にって……」
圭は、網へと視線を向ける。
「回ってるって……こういう事……」
圭がそっと網に手を触れると、網が赤と黒に交互に色を変える。
差綺がクスリと笑う度に、網が圭の体を這うように伸びていく。
「咲耶。防御は済んでいるな?」
「はい」
俺は、圭の体に網が張り巡らされるのを確認すると、咲耶に合図した。
「じゃあ……行け」
「行きます」
俺の指と咲耶の指が動く。
ふわっと空気が揺れると、ガラスケースの上に金色の円が浮かび上がった。
俺は、低い声で咲耶に言った。
「落とせ」
円の光がガラスケースへと落ちると、機材を吹き飛ばし、バチバチと放電した。
圭の体に絡み付いた差綺の網が、ガラスケースに伸び、網が張り巡らされた。
網がガラスケースにヒビを入れる。そのヒビが網と重なった。
「一夜っ……!」
俺は、圭の側から一夜を引き離す。
圭が咄嗟に一夜を掴もうと手を伸ばしたが、俺はそれを阻止した。
……悪いな。
それだけは掴ませる事は出来ない。
お前と繋げさせる訳にはいかないんだ。
「……やめろ」
ふん……もう終わりか。
「やめろ……やめろーっ……!」
亜央の焦りが声になった。
亜央は、ガラスケースの中の圭へと手を伸ばそうとするが、咲耶の結界で近づく事が出来ない。
それでも何度も手を伸ばそうとするが、届きはしない。
「ねえ……」
差綺が亜央に近づくと、口を開いた。
差綺は、亜央に言っているように見えるが、それは違う。
亜央の目は、凍りついたように瞬きも見せず、差綺に向いていた。
クスリと笑う差綺は、首元から蜘蛛を指先に乗せると、ガラスケースに張った網にそっと乗せた。
「その姿を前にして、欲望を見せた君の負け……言ったでしょう? 僕は呪術師『小細工』が得意だって」




